20章 いつだって、声は届くから
karma1 春は嵐を呼ぶ
春が待ち遠しい季節に嵐はつきもの。春の訪れを告げると言われるが、この嵐はあまりに非情だった。
大勢の人が行き交っていた午後2時頃、街は混乱に陥った。レーダー類に反応があり、ブリーチャー警報は発令されたが、海岸の迎撃ミサイルは破壊されてしまい、呆気なく侵入された。
ブリーチャーの大群は小集団に分かれ、福岡北部を中心に散らばっていた。
逃げ遅れた民間人は初動防戦部隊の誘導により、近くのシェルターへ急いでいた。道路は置き去りにされた車、悲鳴と地を踏み鳴らす音が吹き荒れる。
恐怖に染まった瞳が映す、異界の魔物。そう形容するに相応しい物体は、あらゆる建造物と路面を砕き、獲物を奪取しようとする。民間人の退路を守るべく、特殊機動隊と初動防戦部隊、並びに
太い触手が横殴りに振るわれ、ファミレスの大窓にぶつかった。何枚も割れ、店内に無数の破片が飛散する。テーブルの下に伏せていた客たちは、身をすくめて声を押し殺す。
オルタナティブ・グレネードランチャーをグロテスクな顔面へ命中させる。ブリーチャーの体が横に倒れる。青が滲んだ皮膚が露わになっている。特殊機動隊の隊員はじりじりと撤退していく。距離を詰められたら終了してしまうことを心得ている隊員たちは、手堅い戦術を取っていた。
その隙にファミレスの中にいた民間人を避難させるため、初動防戦部隊がバックヤードから入ってくる。厨房にいた店員に身を屈め、お客を誘導するよう指示を出す。
ここにウォーリアがいればまだ楽だったのだが、そうもいかない事態になってしまった。
先に出動していた
生物たちはヴィーゴを筆頭に小集団で街から街へ移っていく。
ブリーチャーとベルリースコーピオンはよだれを垂らしながら駆け回っている。狂気じみた凶悪な様に怯え、震え、逃げ惑う。中には悪魔の生物を一目見ようとする命知らずの馬鹿もおり、初動防戦部隊、または特殊機動隊の隊員が叱咤する場面もあった。
騒乱の瀬に立つ者たちは、恐怖を抱きながらも迎え撃っていく。大きく振られた触手は貫禄を誇る。乱れ飛ぶ鞭は一撃で建物を破壊した。ちょこまかと動き回り、邪魔をする人間はブリーチャーたちにとって耐えがたい仕打ちをしているも同然だった。
武装した人間は充分に距離を取って迎撃している。特殊機動隊と初動防戦部隊は民間人の避難と退路確保に重点を置いてもらっている。無茶させず、死傷者を出さないようにとの教えは、特殊機動隊と初動防戦部隊の隊員に叩きこまれていた。
福岡県内の広域に戦闘範囲が広がっている。西防衛軍基地司令室にも
「
司令官補佐が観覧席の前列で足を組んでいる男に声をかける。
「
芝町は
「そうか。女帝……いや、生島隊長には頭が上がらんね」
「それで、隊長から要望で」
「なんだ?」
「は、なんでも先ほどまで特別訓練を受けさせていた
芝町は椅子の背にもたれ、勘ぐりを働かせる。
「ふーん……ヤツが何か企んでいるのか? それとも、女帝の気まぐれ?」
「わ、私には、分かりかねます」
司令官補佐は困惑を浮かべて返答を濁した。
「ま、いいだろう。支障も特になさそうだ」
「では、司令官の許可が出たとお伝えしておきます」
司令官補佐はデスクにつく情報総括員の1人に近づく。
芝町はモニターをじっと見つめた後、左後方の司令官補佐たちに視線を移す。
「
「はい」
おっとりした印象の女性は席を立ち、応える。
「さっきの彼、新人隊員って言ってたね?」
「は、はい……」
「メンバーの名前、一応調べておいてくれ」
「了解いたしました」
漸野はすぐに連絡調整を担う司令官補佐の男性の下へ向かった。
芝町は軍服のズボンから板ガムを取り、口に含む。口を動かしながら、じっと見つめる。モニターでは福岡に配備された防衛システムと現在の特殊部隊の配置を表していた。芝町はブドウの風味を感じながら目を細めた。
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