karma9 仲間割れ?
正確に状況を掴めなかったが、何かよくないことが起こっていることだけは分かった。
「自分たちが何をしようとしてるのか、理解してるの?」
「聞きたいことはそんなことじゃないだろ? いずな、君はここにいるべきじゃない」
「本気で言ってるの?」
「じゃなきゃここまでしないだろ」
「こんなことしてる状況じゃないでしょ。私なら問題ない。1人じゃ難しいけど、みんながいる。健太だってそうなんじゃないの? みんなが頑張ってるってのに、黙って引き下がれるわけがない!」
藤林隊長の表情がにわかに悲しみを帯びる。
「予想通りだな。話し合いで解決できないなら、力ずくでも止める」
最後通告。藤林隊長を筆頭にして、4人はいずなに向かって駆け出した。
四方向からいずなに迫ってくる。藤林隊長の異変を察知した時から各位置を把握していたいずなの意識は、すぐさま臨戦態勢に入った。
横から迫った丹羽は拳を握って振り抜く。いずなは体を回してかわすと、体を回した遠心力を使って丹羽を押す。丹羽は止まれず藤林にぶつかる。
四海は裏拳でいずなの頭を狙う。いずなは後ろに引き、続けて横薙ぎに振られた東郷の手刀を受け流す。
東郷は素早くいずなの懐に左の拳を入れた。体格差は歴然だ。しかしいずなは体格差のある相手との戦闘を熟知している。
人間の動きは電気信号によるものだ。ならばその電気信号を狂わせればいい。電磁力の流れを詳細に
いずなの体から発せられた電気は
突然飛んできた拳に
丹羽と四海がいずなと距離を詰める。
いずなは机に転がって上る動きの流れで、軽やかに立ち上がった。藤林と東郷もいずなの立つ机に駆け寄る。逃げ道を失い、いずなは周囲に気を配る。
「前々からこうしたいと思ってたんだ。上の命令だからおとなしく聞いてたが、もう我慢できねぇ。ボコボコにしてやるよ」
東郷は不敵な笑みを浮かべながらいきり立つ。
「ごめんね、いずな。こうするしかなかったんだ」
四海は申し訳なさそうな言葉を漏らすが、手加減する気はないらしい。
「僕らはそばでいずなをずっと見てきた。いずなの頑張りが僕らを奮い立たせていた。その分、出来なかったこと。失ったことも多かったはずだ。いずなは、充分に頑張った」
丹羽に何もかも包み込んでしまうようないつもの笑顔はなく、真摯な眼差しがいずなに真っすぐ注がれている。
丹羽の言葉だけでは足りないほどに、いずなの貢献度は誰もが認めるものだった。この先の戦いまでいずなの力を借りることに引け目があったのだ。
いずなからしてみれば、突然梯子を外された気分だった。これまで頑張ってきたことは一体なんだったのか。根底を覆すほどに失望したと同時に、沸々と怒りが募っていった。
「頑張ったからなに? それで誰が救われるの?」
いずなの拳が強く握られる。
「私は最後まで戦うって決めたの! 死んでいった仲間のためにも、これ以上死ななくていい人が出ないためにも、戦うって決めたの……! 約束したじゃないっ……。戦いが終わったら、みんなで海に遊びに行こうって」
雫がポタポタと黒い机の上に落ちる。涙が熱く濡らした声は震え、切に響く。
4人は目を逸らさず、いずなの声を受け止めた。
いつしかぶりに見た、いずなの涙。
隊員は感情を抑えて任務を遂行することを強いられる。わずか11歳の女の子が簡単にやれることじゃない。
時に人の死を目の当たりにする現場だ。死体が転がっている横で戦わなければならないことだってある。そうした苛酷な中で、いずなはずっと戦ってきた。
押し殺すような涙声が木霊する。4人の表情はそれぞれ異なった情動を貼りつける。神妙な顔つきだった藤林隊長は表情を緩ませた。まるで困ったように、まるで
「覚えてたのか。意外だな」
「だから行っただろ。いずなは覚えてる
丹羽は口元をほころばせて言う。
「賭けは俺たちの勝ちだな。ドランメン産のトラ・アヴェン・エンジェル、買えよ?」
東郷は藤林に念押しする。
「分かったよ」
いずなは困惑する。
「何、言ってんの?」
涙を止めて呆けたいずなを見ながら4人はニヤニヤとしている。
「ついてこい」
藤林がそう言うと、4人は部屋を出て行った。
いずなは何が何だか分からない。袖で涙を拭い、不審な思いを抱きながら藤林たちの後を追った。
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