karma8 機械を装備する生物
一瞬、幻でも見ているのかと錯覚させる現象が起こっていた。
空で浮かぶ者は、優雅に両手を空に掲げた。雨雲が覆う天を仰ぎ、全身で雨を受けている。ブリーチャーたちはその姿を見上げ、甲高い鳴き声を上げ始めた。
人と似て非なる形をした者は、手を下げて奮起するブリーチャーたちを鎮める。細長い尻尾をくねらせ、茫然とする桶崎に視線を引き戻す。
黒い大きな
尻尾は背中から取り出した物を異形の者の手に渡す。手にした50センチほどの長さの棒が桶崎の目を引きつける。長く鋭い爪を持つ手の中で、細長い棒が強く握られた。
冷たい雫を纏う棒は手元の外筒が伸びて、棒の全長を保護するように覆う。中に収納されていた両端が伸びて、2メートルほどの長さになった。すると、棒の先端が青い光を放つ。先端で輝く青の光源は少しずつ形を帯び、物質を顕現させていく。
周囲に散っていた光を囲うように
暗闇に煌めく青い一点の光。降り続く雨粒を透過し、青い光は濡れながら桶崎の瞳を奪った。
閃光。激しく強さを増した。道路を埋め尽くしていた雨水を吹き飛ばすほどの衝撃が駆け抜けた。
司令室で桶崎の視界を映すモニターは、耳をつんざくような音と共に乱れて途絶える。
「オペレーター!」
斎藤司令官は確認を急かす。
「桶崎隊員の生体反応、確認できています」
桶崎がまだ生きていると分かったはずなのに、斎藤司令官の顔から焦りの色は消えない。
「また厄介なヤツが上陸してきたもんだ」
「あいつは……」
興梠は眉間に皺を寄せて呟く。
「世界で片手で数えるほどの報告数しかないブリーチャー属、ヴィーゴ。イギリスの国防省の報告通り、本当に機械を操るみたいだね」
葛城は神妙な顔で語り、観覧席の背にもたれる。
「あれをブリーチャーが作ってるなんて、ほんとおとぎ話だよな」
御園は苦笑いを浮かべて冗談みたいに言う。
「俺たち人間と同等の科学技術すら持ってるってわけだ」
興梠は唇を真一文字にして、ブリーチャーの底の知れない脅威に息を呑んだ。
降りやまぬ雨と地面を這いながら排水講に流れていく水を弾いて、花巻市へ向かう。土砂崩れで寸断された道を越え、ようやく山を抜けた。あとは道路を伝い、花巻市へ向かうだけだ。
勝谷はブーストランで走行する足を止めた。50メートル先には警察車両が見える。道路を数台のパトカーが塞ぎ、看板が通行止めを主張していた。
その先で、左から右へと流れる川が通っている。濁流と呼ぶにふさわしい有様だ。川幅25メートルくらいはあるだろう。荒々しく、水面が逆立っている。勝谷は川に架かる橋を通るつもりだった。だが、橋は真ん中をもぎ取られ、無くなっていた。勝谷は表情をゆがめ、迂回する道を走っていった。
地を覆っていた水はまるで干上がったかのようだ。それもつかの間。しばらく見えなかった道路はゆっくりと水の中に隠れようとしている。かろうじてまだ立っているガードレールに、横転した車がひっかかっている。
その陰に隠れ、宙に浮かぶヴィーゴの様子を
しゃがみ込んで車を背にしながら、九死に一生を得た呼吸は早まる。桶崎が気になるのはブリーチャーたちだけではない。
数少ない建物に視線を移す。建物はさっきの衝撃で傾き始めている。どうやら時間も残り少ないらしかった。
うかうかしているとブリーチャーたちに民間人を奪われてしまう。その前にヴィーゴと決着をつけるか。先にブリーチャーを始末しておくか。判断しかねていたその時、連続的な銃声が届いた。
左を向けば、遠方から狙撃する大型車がいる。長い砲身を上に添え、咆哮を鳴らしている。ブリーチャーたちは体を撃ち抜かれ、ひずんだ悲鳴を上げながらジタバタさせている。数は4台。ブリーチャーでも戦闘車がいる場所まで走るのは骨が折れるだろう。
すると、桶崎に通信が入る。
「こちら初動防戦部隊第十四小隊。
「了解。ヴィーゴは引き受ける」
そう答えている間に、ヴィーゴは
遥か遠方、距離にして500メートル。狙いを外す心配はいらない。ヴィーゴの持つ武器ならば、配置された戦闘車すべてを1発で仕留められるほどの攻撃有効範囲を誇る。強く握りしめようとした1秒前、マシンガンが先に光を強めた。
数発を受け、手元が狂う。衝撃を受けた反動により、衝撃は目の前に落とされる。衝撃波は突風を引き起こし、ブリーチャーは強烈な圧迫に声を失った。下にいるブリーチャーたちは押し潰され、肉を散り散りにされてしまう。
無情な顔が振り向けば、黒い奇抜なフォルムのマシンガンを構える
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