karma5 冥界ディストピア
悪天候のためか、流星ジェットは時折揺れを起こしている。隊員たちは
「これから君たちには岩手県に下りてもらう」
「見回りはどうされるんですか?」
「見回りは
「相当な数なのか?」
斎藤司令官の指示から察せられる切迫感を
「いや、いつもの大群の数くらいとはみている。だが、こちらで把握できたのは数だけだ。氾濫した川が街に
「追い払う? おいおい冗談だろ。斎藤さん、俺は殲滅しかやらねえぞ」
「ならブリーチャーを探し回ってくれ。やることはいつもと変わらん」
斎藤司令官はため息交じりに答える。
「
操縦士の音声が届くと、ハッチが開き、けたたましい雨と風の音が吹き込んでくる。
「頼んだぞ」
斎藤司令官との通信が切れる。
蓬鮴隊長が立ち上がり、各隊員も続く。
蓬鮴隊長が先頭に立ち、暗がりに落ちた街へ飛び出した。
後部ハッチから続々と隊員が飛び出す。風雨が舞う街を見下ろせば、一目で水の街へ変貌を遂げているのが分かる。
街は時間と共に影に染まっていく。もうすぐ、この街にも夜が訪れようとしていた。
各部隊に司令室からの指示を聞き、初動防戦部隊、特殊機動隊、自衛隊がそれぞれ連携の取れた任務を実行に移していく。
桶崎謙志も与えられた持ち場につこうと、建物の屋根という屋根を伝い走っていた。雨は少しずつ弱まっている。が、水の量はどんどん増えている。
すぐ近くに川があるせいか、水の流れも速い。水の量の増え方といい、流れの速まり方といい、変化は歴然であった。
こうも水位が高いと不用意に道へ下りられない。また水量も相まって足を取られる可能性がある。この状況の中、安否確認をしたり、行方不明者の捜索をするのは骨が折れるだろう。
ふわりと向かい風が体にぶつかってくる。辺りも暗くなり、気温もだんだん低下してきている。
防寒に優れている
空がもうすぐ夜を告げようとしていたが、辺りに明かりが灯っている家は少ない。この辺りの住民のほとんどは避難所に向かったのだろう。
桶崎隊員は横に長い平屋の屋根に着地する。そこで立ち止まり、周辺を見渡す。
明かりの少ない夜の街。雨が弱まっていくことは良い知らせなのかもしれないが、水に侵された街が余計に
その時、遠くで
桶崎は発見したブリーチャーの下へ向かう。
走りながら耳の辺りに手を添える。ARヘルメットのシールドモニターに『e9 KO ▷▷▷ all』と表示される。
「こちら桶崎。花巻市エリアKにブリーチャー属を発見」
「数は?」
斎藤司令官がかぶりつく勢いで情報を引き出そうとする。
「まだ分かりません。今から確認します」
「確認でき次第報告してくれ」
「了解」
桶崎は気づかれないよう住宅地を
桶崎はコンビニの屋根に飛び移ると、ブーストランに制限をかけた。
桶崎は周りを注意深く観察する。シールドモニターが透過性視覚機能に切り替わる。新築だったであろう住宅はぺしゃんこになり、住宅の瓦礫が山のように積み重なっていた。そのほとんどが水に浸かっている。
周囲を見回して、住宅を破壊した犯人を探す。すると、すぐ真下の水の中に大きなシルエットを捉えた。
体をくねらせ、長い触手を広げて泳いでいる影。周辺を物色しを終えたのか、ブリーチャーは迷うことなく、どこかへ向かっているようだ。
桶崎はブリーチャーの後を追う。
ブリーチャーの数を把握する方法はいくらでもあるが、ここで戦闘になればそれどころではない。現状、ブリーチャーの大群が迫っていたとの情報が入っている以上、隠密に数を把握した方がいいと桶崎は判断した。
桶崎は突然追うのをやめた。瞳を開き、真っすぐ見つめる。シールドモニターは画面を引いて街を
街は真っ赤に埋め尽くされていた。30、いや50はいる。赤いシルエットたちは
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