6章 入隊試験

karma1 平穏のプリズム

 三角錐のモニュメントが、オレンジ色の街灯の光に当てられプリズムを見せる。

 モニュメントの周りに集まる小奇麗な服を身に纏う人々は、携帯やカメラ機能を持つ指輪で写真を撮っていた。モニュメントから少し離れた場所にあるベンチに座っていた氷見野は、強張こわばった表情をしている。


「大切な友達を、亡くしたのね」


「それから俺たちは、この基地で子供として振る舞った」


 哀しみを感じさせないよう意識している声が湿っぽく響いた。


「俺たちはウォーリアだけど戦いに出ていい人間じゃないと思った。戦いに出た結果が、あのザマだからな。でも、テレビやネットでブリーチャーの話を聞くたびに、本当にこれでいいのかなって思ったんだ。急速に増殖していくブリーチャーに、数少ないウォーリアや同じように戦ってる人が太刀打ちできんのかって……」


 西松は自分のてのひらに視線を落とし、グッと握った。


「足手まといにしかならないかもしれない。もし、俺たちにもまだ何かできるなら、もう一度、本気で戦場に出たいと思った。それであいつらとまた、普通に日々を過ごしてみたい。それが、俺たち雷神エクシリアーズの夢だ」


 西松はまだあどけなさの残る顔でそう言い切った。

 彼らはまだ未熟だ。だが、自信に満ちあふれた顔と言葉の強さは、確固たる覚悟を宿した瞳だった。

 氷見野はふっと笑い、プリズムを見せる煌びやかなモニュメントに視線を向ける。


「頑張ろうね」


「おう!」



ЖЖЖЖЖ



 数日後、氷見野は西松から聞いたブリーチャーのことが気になっていた。ネットや教材などで調べられたが、難しい言葉ばかりが並んでわかりにくい。

 今までやってきた講義から察するに、教科書に載っていることすべてを講義で取り扱うわけじゃないようだ。取り扱ったとしても、サラッと教科書に載っていることを読むくらいだろう。

 ここはあの人に聞くべきかもしれないと思い、時間を見つけて地下8階にある特殊整備室をたずねた。


 扉横についたインターホンを押すと、低い声で「はい。どちらさま?」と応答があった。


「氷見野優二兵です」


 氷見野は軍属らしく答えてみた。すると、あきらかに笑っているだろうなという声色が「今開けるよ」と言った。氷見野は気取ったことをやった自分が恥ずかしくなり、後悔する。

 扉が大げさに空気の抜けるような音を立てた。氷見野は縦に長い取っ手を掴み、押していく。褐色の肌との対比で、白い歯が際立っているその男は、氷見野に笑みを投げかけていた。


「やあ、久しぶりだね」


 氷見野は恥ずかしさを引きずったまま会釈をした。

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