karma7 扇動する戦士

 柴田、興梠、西松は生物の正面に立つ。


「あれが今回の事件の元凶か」


 柴田は鋭い眼差しで壁に張りついている生物を睨む。


「気持ちわりいぃ~!」


 西松は大げさに震え上がる。4メートルほど上の壁で留まる生物は、下に垂らす触手の先を刃に変化させ、西松たちに向ける。


「来るぞ!」


 身構えた西松たちは腰を落とす。先が鎌のように変形した触手が西松たちに飛んだ。西松たちは飛んできた触手の鎌から逃げていく。プラスチック製の座席が綺麗に切られ、座席の支柱も切り刻む。

 平らな生物は滑るように壁を移動し、上部の席の間を走る西松に、先が丸まった殴打用の触手を飛ばして追いかける。西松は機敏な動きで2階席のスペースを大きく使い、いくつもの触手から逃げていく。


 生物はスナイパーの銃撃を掻い潜り、壁から2階席の床に飛び下りる。

 生物は小さな体から10本の触手を一気に出して、西松に向かわせた。西松の後ろで座席の破片や金属片が飛び散っていく。触手は人間の走るスピードを遥かに上回っており、西松の背後を捉える触手がすぐそばまで迫る。


 すると、西松が突然振り返った。瞬間、西松に迫っていた触手の先がソーセージの肉みたく切られた。いくつもの触手の断片が西松の足元に落ちていく。

 生物は切られた触手を体内に引っ込め、敵の切断方法を探る。雨の雫の形にも見えるし、勾玉のような形にも見える2つの刃が、西松の周りで細く青い筋を散らして舞っていた。


 2つの刃物は西松の意に従うままに、黒い皮手袋をつけた手に収まる。光を反射する刃物が西松の両手からチラリと覗く。

 西松は強張こわばった顔で真正面にいる生物を迎え撃つ体勢を取る。


「B班、C班、狙撃できるか?」


 隊長は特殊機動隊と初動防戦部隊の合同即席チームと連絡を取り合う。


「こちらB班、いつでも撃てます」


「こちらC班、射程距離、照準、クリア」


 スナイパーたちはワイヤレスマイクで生物の位置を共有しながら、いつでも撃てる態勢を整えていく。生物は体を膨らませる。


「撃て!」


 スナイパーは一斉に射撃を開始した。

 体を膨らませた生物は、体内で修復させたいくつもの触手を西松に真っすぐ飛ばす。スナイパーが撃ち放った弾丸は、伸びた触手に被弾していく。触手はぶれて勢いを失くし、誰もいない空席へと向いてしまう。


 興梠は少し離れた最上部通路から姿を現し、先のとがったダイヤ型の手裏剣を振りかぶって放った。手裏剣は回転しながら生物の柔らかい皮膚に刺さる。興梠は振りかぶった手を伸ばす。

 手の中で明滅する青白い電気は唸り、指と指の間に筋を張っていく。興梠は体に流れる感覚を遠くに飛ばす意識を高める。光を纏う手を逃げ惑う生物に向けると、波打つように青い筋の放射閃光が飛んだ。

 銃弾を抜き去る速度で空間を駆けていった青い光は、吸い込まれるように手裏剣に届いた。手裏剣の面に取りつけられたボタン電池が発火すると、生物に刺さっていた手裏剣はたちまち火に包まれた。裏剣は生物にできた傷口を痛めつける。


 生物は悶え苦しんでいるのか、小刻みに体を揺らした。生物は傷口から触手を出して手裏剣を落とし、興梠に触手を飛ばす。


 興梠はすぐさま離れ、生物の触手が届かない距離まで逃げる。スナイパーの援護もあり、触手は勢いを失って届かない。また、生物への直接射撃も含め、針のむしろとなる。

 生物は早くのがれたいがゆえに、大きく飛び上がって最上部通路まで上ろうとした。

 空中に飛び上がった瞬間は狙いやすくなる。

 西松は勾玉の刃を飛ばす。飛び上がった生物は柔らかい体から素早く触手を出して弾いたものの、幾重にも伸びる触手の間からキラリと輝く。

 アンダースローから浮き上がる軌道を見せた勾玉の刃は、しっかりと生物の中へ深く入っていた。先に放った勾玉の刃は見せ玉。狙い通りに生物の体に入り、西松はほくそ笑んだ。


 西松は左手をおもいっきり横に振る。生物は最下部通路の方へ飛ばされてしまう。

 待ち構えていたように御園は猛虎のよう駆け出し、2階席の上段から飛んだ。御園の体は飛ばされる生物に向かう。肩を引き、黒いゴム手袋に覆われた右手を強く握った。

 拳は渾身の力で突き出される。生物の体に拳の衝撃が伝わるその時、鈍い雷鳴と閃光が散乱した。生物の体はぐにゃりと変形しており、へこんだ部分には焦げた痕が残っている。

 吹き飛ばされる生物は体を床に打ちつけて転がる。すると、6つの棒状の手裏剣が生物の体に刺さった。生物は動けない。暗がりを仰げば、またたく間に屈折する青龍が現れた。発光する青龍は宙を舞い、落ちていく生物に直撃した。

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