第22話 豹変
「ちょっと、消さないでよ。」
「ひぃっ!!?」
突然、杏の背後から、死後の世界そのもののような、薄暗いしかし信念のこもった声が聞こえる。死後の宮野からの呼びかけに怯えきっていた杏は5cmほど浮き上がった。
「凛さんではないですか~~、いつからそこにいたのですか?」
「凛!大丈夫なの!!?最近何してんのよ!!!?」
後ろを振り返った丸尾と杏が、餌に飛びつく猫たちのように彼女に食いつく。しかし凛は、帰るべき家を見失ってしまった迷子の猫のようにすっかり雰囲気を変えてしまっていた。清潔にしていたワンピースが老婆のように皺々だ。いつもは後ろで一つに束ねられていた健康的な黒髪も、まったく手入れせず伸び放題で汚れた雑巾のように肩にかかっていた。ジョナゴールドのようにつやつやしていたかつての健康的な頬も、容赦なくひび割れ、眼はウサギのように血走り、睡眠と栄養の不足は100人が100人指摘するだろうくらいの様子だった。
彼女は問いかけを冷たく無言の返事であしらうと同時に、杏が恐怖で条件反射的に落としたディスプレイの電源スイッチを再び入れる。熟練バーテンダーがアイスピックを捌くような軽快かつ、すばやい手つきだ。何の躊躇もない。そして食い入るように見入る。5分が経った。
「宮野は、今も、死んだ今も、苦しみ続けているのね。」
何かのいたずらか、文書の転送ミスだ、などとは、毛ほども思わない確信に満ちた声で、新しく建てる予定の喫茶店の構図でも一から構想するかのように、思慮深げにゆっくりとそう言った。
「部長、ちょっとどういう事なのか説明して。そして、この事件やブログ記事には、どんな背景や可能性があるのかしら?」
「凛さんも、ようやく分かってくれましたか~!!」
以前なら好奇心の赴くまま、杏と笑って面白半分に丸尾の言う怪奇現象を聞いている凛であったが、憔悴し切っている中にも表れているその真剣な眼差しは、何か恐ろしい目的を杏に感じさせずにはいられないのであった。もちろん、杏の感じたそんな洞察など丸尾にあるわけもなく、古き戦友を一人獲得したかの如く熱心にオカルト的見地から考察を凛に説き出す丸尾であった。
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