東京背骨コレクション2018春

亀平

第一章

1-1 自然対数の底

18:30 就業時刻が近くなると、

グループチャットの通知が騒がしくなる。

多くのエージェントが補給のことを考えるからだ。


「弾が欲しいです今夜FFありますか?」

「US余ってます引き取り手募集」

「ジャービスとADA交換しませんかー」

「仕事終わりましたーなんじどこー」

 …

30分経つと未読が50件


高レベルアイテムの補給は1人ではできない。

8人以上が同じ時間、場所に集まるの必要がある。


補給イベントはFFと呼ばれている。

アクティブユーザーが減ってるのか寒さのせいか、

最近は成立しないFFも多いと言う。


主催者は2時間前に作ったFFの参加状況を確認する。


早番FF1940@築地本願寺

参加6人 未定 2人 いいえ 5人


開始まであと1時間、判断が難しい数だ。


「本願寺FF決行します!」


決行が決まると参加者が増える。

いいえの人は未定へ、未定の人は参加へ。

今回はギリで成立しそうだ。

いつだって8人揃うと気持ちが良い。


「8人揃いました、会場へはステルスでおねしゃす」


襲撃リスク低減のお願いをする。

敵に気づかれたら妨害され補給は失敗してしまう。

参加してくれる味方も多ければ、

襲撃くる敵も多いのだ。


エージェント数は人口密度に比例する。

ポータル密度はエージェント数に比例する。

要するに活気ある街、銀座は、

エージェントとポータルが多いのである。


銀座を大きな△で覆う。

話を聞いた時、彼は効率が悪いと思った。

だが今はなぜだか納得してる、

たまには無茶もいいと。


東銀座駅から築地本願寺へ向かう、

街角の信号と同期するように、街中のポータルの色が変わる。

通りすがりにプレイするエージェントが多いのだ。


珍しく彼の心が踊る。


19:40 FFイベント会場につくと、

目視で10人ほど人影があった。

職業柄か声をかけずに、

用心深くグループチャットで点呼をとる


「ノ」

「ノ」

 .....


10人の手が上がったので警戒を解き

挨拶を済ますと素早く構築の指示を出す


「ノーガード高速仕様で行きます」


ここからは時間との勝負だ!

素早く補給基地構築をして、

一心不乱に補給を開始する。


端から見ると気持ちが悪い光景であろう

突然集まった奇妙な集団、

黙々とスマフォ操作する様は異常である。

ただ近所で見かけた際はそっとしておいて欲しい。

参加達も不審者に見られてる自覚がある故、

何卒。


「フラッカーどうぞ」


課金アイテムを使うと補給量を増やすことができる。

しかし敵の襲撃と等価だ。

補給基地を放置する敵などこのエリアにはいない。


20:00 築地本願寺 FF開始から20分後


想定通り襲撃のスペシャリスト2名が到着する。

毎日どこで開催してもスクランブルでくる2名。

補給構成のポータルはあっという間に壊された。


「今夜のFFは終了解散」


再構築をする暇はない。

今夜は予定があるからだ。

都市を貫くあの馬鹿げた作戦が。

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