つくりべの島 YÖPA
@takamoon
第1話始まりの物語
空が果てしなく青く、海がどこまでも深く透き通り、大地には植物が鬱蒼と茂っていた恐竜の時代に、巨大な火の玉が宇宙から落ちてきました。
すさまじい衝撃音が地上に轟きわたり、一瞬にして森は燃え上がりました。
山は火を噴き、煮えたぎった海はもうもうと蒸気を上げました。
多くの生き物が死に絶え、灰やチリとなって空に吹き飛ばされました。
煙と灰がすべてを覆い、光は閉ざされ、燃え上がる炎だけが真っ暗な世界を赤く染めていました。
巨大な火の玉が地球に突入しようとしたまさにその時、ひときわ大きく伸び広がった植物が、花を咲かせようとしていました。
開花と同時に種を飛ばすこの植物は、1000年に一度だけ花を咲かすのです。
大地に火の玉が衝突する時と開花の時が重なりました。
衝撃音と同時に花が咲き、一粒の種が勢いよく飛び出しました。
種は炎で吹き荒れる風に巻き取られ、一瞬にしてはるか上空に舞い上げられました。
無数の灰やチリが上空を埋め尽くし、種はその中に混じって漂いました。
長い年月上空を漂い続けた種は、周りを覆う灰やチリからかすかにこぼれる声を聴きとりました。
浮遊する灰やチリは、巨大な火の玉の落下で燃え尽きた物たちです。
かつての生き物たちが灰やチリとなり、一瞬にして絶やされた命の声を囁いているのです。
その声には様々な‘思い’が込められています。
種はその‘思い’を感じ取り、体の中に染み込ませました。
種が上空に漂う‘思い’をその体に吸収し始めてから、空は少しずつ澄んで行きました。
空が澄むにつれ種の体はどんどん重くなって行きましたが、やがて青さが戻り、太陽の光が地上に降り注ぐようになりました。
浮いていられなくなるほど重くなった種は、光の中をゆっくりと地上へと降りて行き、やがて海に落ちました。
海に落ちた種は、波に漂った後、底へと沈んで行きました。
やがて海底に辿り着いた種は砂に潜み、はるかに広がる闇に耳を澄ませました。
海の中では様々な生きものが活きています。
種はそんな生き物の気配と‘思い’をひそかに感じ取っていました。
新しい命が生まれ、生きていたものが死んで行く。
生きものたちはそんなうつろいの中で、‘思い’の声をときどきに発しています。
声は一瞬の輝きの粒となり真っ暗な海に散って行きます。
その粒は海に広がり、海底の養分となって命を育みます。
長い年月砂の中に潜んでいた種が、‘思い’の声の養分で芽吹きました。
海底にしっかりと根を張り、海上に向かってまっすぐ伸びて行きました。
暗黒の海底で芽吹いた種が、海上に向かって伸び進みます。
上るにつれて明るさを増す海中で、太陽の光に力をえた子葉は、勢いを増してぐんぐんと伸びあがります。
海面近くなったところで大きな影が子葉の前に現れました。
その影は、海に漂う浮島です。
勢いを増した子葉は、避けることなく突き進み、その島を貫きました。
浮島を貫いた子葉は、勢いそのまま伸び上がり、大きく葉を広げました。
浮島の大地は石だらけの荒地でした。
島にも子葉が根を張り育つことで、荒れていた大地が少しずつ変わって行きました。
その葉は太陽の光を養分に変え大地に降り注ぎ、その根は海に生きる物たちの‘思い’の声を吸い上げ大地に広がりました。
豊かになった大地は、新しい命を育みました。
草が生え、植物が育ち、花が咲き、実がなって、生き物たちがこの島にやってくるようになりました。
島の中心から空に向かって大きく広がる葉っぱがこの島の母となり、BOYÖ(母葉)と呼ばれるようになりました。
海のことも空のことも、BOYÖは広げた根と葉っぱで知ることができます。
いろいろな生き物の声を、根と葉っぱで感じることができます。
BOYÖはその中に潜む‘思い’を感じ取り、生きる力を大地に与えます。
BOYÖもまた自分の‘思い’を種に乗せ、飛ばします。
風や川、鳥や昆虫に乗せて、さまざまなところへ‘思い’の種を届けます。
種を受け取った生き物たちが、その‘思い’に惹かれて島に住みつくようになりました。
住みついたものたちは、自分の‘思い’やこの島に届くさまざまな生き物の‘思い’を形にするようになりました。
あるものは詩に、あるものは絵に、そしてあるものは音に、形のないものをいろいろな形にして命を吹き込みます。
こうして様々な‘思い’を形にする者たちを、この島では“つくりべ”と呼ぶようになりました。
つくりべたちは作ったものをBOYÖの種に包み、空と川に流します。
受け取った者たちの生きる力となるように、つくりべたちは‘思い’を込めて種を送り続けます。
葉っぱが母(BOYÖ)となり、つくりべたちが暮らしはじめたこの島は、やがて
「つくりべの島 YÖPA(YÖ=葉 Ö=島 PA=葉っぱ)」と呼ばれるようになりました。
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