碧い聖石
久徒をん
第1話 水の星に石が降る
その星はとても青く美しい。
透明度の高い海がこの星を覆っていた。
広大な海に小さな島が点在するその星の名は《アクアティリス》
太陽と同じ大きさで白く輝く
地球とよく似た環境だがこの星に住む人間が我々と同じ種族か定かではない。
決定的に違うのは彼らが海底に住んでいる点だ。
この星には海底に幾つもの《聖樹》と呼ばれる大樹が生えている。
人々はその聖樹の根に沿う形で海底都市を作って住んでいた。
海底都市は大きなドーム状の居住区に上下水処理用の施設と潜水艇が停泊できる港が隣接する形で作られた。
大昔の地殻変動で多くの陸地が沈没して以来、残った小さな島々に全ての人間が住むのは不可能だった。
陸上に住んでいた人々がどうやって海底に町を作って住むようになったのかは数々の神話が物語っているが今を生きる人々の記憶からは完全に消えていた。
各地に生えた聖樹の恩恵を受けて人々が海の中で生活している──誰もがその程度の認識で暮らしていた。
その聖樹には《聖石》という輝く石が埋め込まれていた。
聖樹は聖石の力で高濃度の酸素を生み出し、海底都市でその酸素を取り込んで人々が暮らしていた。
この星の文明については追々説明していく事にしよう。
ある日、小さな隕石が落ちた──
普通なら小さな隕石は地上に到達するまでに燃え尽きてしまうが、その隕石は燃え尽きずに海に落ちた。
海面に巨大な水柱が立ち大きな爆発が起きた。
周辺に大波が広がって被害は付近の島を一時的に飲み込んでしまう程に及んだ。
当然、海底の町にも甚大な被害が発生した。
隕石が落ちた付近の町は吹き飛ばされて聖樹だけが残った。
異変はその翌日から起きた。
隕石落下の被害を免れた周辺の町で人々が倒れて昏睡状態になった。
異変の知らせを聞いて他の町の医師達が駆け付けたが原因はわからなかった。
何らかの理由で聖樹に異変が起きたのではないかという結論になり、研究者達が聖樹を調べ始めた。
海上の光が届く明るい海底。聖樹の周りで数人が泳いでいる。
「聖樹から発生している成分はどれも正常値だ」
「聖石の輝きも異常はない。何が原因なんだ」
「海底の土の成分に不純物があるようだ。計測出来ない成分だ」
「この前の隕石落下と関係があるのか?」
「わからんな」
軽装の潜水服を着た男達はヘルメットの無線を通じて会話していた。
「付近の海水と土と聖樹の組織を持って帰ろう」
「了解」
男達は手早く作業を終えて潜水艇に戻った。
潜水服を脱ぎ上半身裸の男が操縦席の椅子に座った。
男は無線機に話しかけた。
「今からサンプルを持って帰還する」
「了解」
船内に女の声が響いた。
男は操縦桿を握った。潜水艇が静かに前進した。
「結局、原因はわからないままか」
「そういう事になるな」
二人の男が操縦室に入ってきた。
「このまま研究所に直行するが構わないか?」
運転している男が後ろの席に座ろうとしている男に訊いた。
「ああ、構わない」
「俺も同じく」
「了解。このまま海上に浮上して飛んで帰る」
操縦席の男が操縦桿を引いた。
白い潜水艇はゆっくり海上に向かって浮上した。
海上に到達した。青空の下、どこまでも水平線が広がっていた。
「飛行モードに移行」
潜水艇の両側から翼が伸びた。
「エンジン出力良好。両翼展開完了」
後部座席の男が機器をチェックしながら言った。
「離陸する」
操縦席の男が操縦桿を一度手前に引いて伸ばした後に前に倒した。
翼を広げた潜水艇が前進を始めた。
両翼と機体後部が青く輝くと機体は高速で離陸して水平線の彼方へ飛んで行った。
通常の潜水艇の他にこの様に飛行可能な機体もあった。
しかし飛行型の潜水艇は機体の開発やメンテナンスに高度な技術を要する為に研究機関などごく一部が持っていた。
そんな海底に人間が住む
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