~独りじゃない~・3

「デュー!」

「て、めぇ……!」


 消えかけていた“総てに餓えし者”がデューにとりつき、その小柄な全身を黒い皮膚で覆っていく。


「まだこんな力がっ……けど、どうせすぐ……」

「一瞬動きを止められるなら充分だ……ほら、どんどん崩れていくだろう?」


 これでお前は逃げられない。


 こうしている間にも崩壊していくツギハギの塔。

 既に仲間の大半はブラックカーラント号に乗り込んでいるが、デューの足はそこから最も遠い壁際にまで下がらされていた。


 ビシッ、と床に隔てるように亀裂が走る。


 大精霊の加護があるデューなら完全に取り込まれることなく魔物を浄化できるだろうが、もう彼の力では船に辿り着けるかどうか……


「デュー、諦めるな!」


 ミレニアがデューの腕に、先端に錘のついた鞭……自身の武器を巻きつける。


「元の姿に戻って、いろいろエンジョイするんじゃろ? こんな所で、そんな姿で終わってはならん!」

「ミレニア……」


 悲痛な声で訴える少女の足元が、無情にも崩れようとしている。

 早く乗り込まなければ、彼女まで……そう悟ったデューは、腕に巻き付いた紐を切り離す。


「デュランダル、お前……!」

「教官、みんな、ミレニアをブラックカーラント号へ……」


 頼む。


 教え子に指名されたスタードは一度吐きかけた言葉を呑み込むと、


「……これ以上、私に見送らせないでくれ」

「わかってる。すぐ行くからさ」


 同様に状況を把握した仲間達と共に、駄々をこねるミレニアを船に押し込んだ。


「そこの兄貴も、ミレニアを頼むぞ。強がり姫様なんだからさ」

「君に言われなくても、デュラン……待ってるから、遅刻は厳禁だよ」

「うるせえなあ」


 とうとう天井が崩れ、落ちてきた巨大な瓦礫がデューの姿をほとんど隠してしまう。


「ほら、早く逃げろ。もう長くないだろ、これ」


 さっきよりも揺れが激しくなり、次々に残骸が落ちてくるツギハギの塔から一刻も早く船を離さなければ、デューだけでなく全滅すら有り得る。


「デュー、デューっ!」


 必死にデューを呼ぶミレニアの目から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちる。


「……ゴメン、もう限界っ!」


 キャティが声をあげ、ブラックカーラント号が名残を惜しむように離れていくのを瓦礫の隙間から見送ると、デューは背中に壁をつけた。


「そうだ、それでいい……」

「無様なものだな」


 一連の流れを見ていた魔物が、愉快そうに喉を鳴らす。


「ひとの孤独を嘲笑ったお前が、最期は仲間とやらに見捨てられ、孤独に死ぬんだ」

「アンタの目はとことん節穴だな。オレはアンタを嘲笑ってなんかいないし……」


 見捨てたんじゃない、信じてるんだよ。


 そう言って細められる藍鉄の瞳は、微塵も諦めてなどいなかった。

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