~独りじゃない~・2
激しい戦闘の末に、ミレニアの聖依術が床に描かれた陣を壊し、そこから湧き上がっていた光も消えた。
そして“総てに餓えし者”もまた、強力な浄化術を受けて、体の大半が消え入りそうに揺らいでいた。
「やったの、か……?」
警戒して構えたままの仲間達の中で、おそるおそるといった感じでカッセが呟きを漏らす。
力なく項垂れる魔物がこれ以上何かを隠しているようには思えなかった。
「隕石をぶつけることも、こいつらを倒すことも、できなかった……だと……」
魔物の声は弱々しく細り、喋る度に消滅は進んでいく。
もはや戦う力は残っていないのだろうそいつは、衝撃で穴の開いた天井をおもむろに仰いだ。
世界を滅ぼす大掛かりな術が無効化され、光射し込む空からは隕石の脅威はゆっくりと去っていくのだろう。
まだ見た目には大きな変化はないが、常に頭上に感じられた嫌な圧迫感はもう消えていた。
だが……
「っ!」
シュクルとカッセの尻尾がいち早く危険を察知して立ち上がる。
直後、彼らの足元が大きく揺れだした。
「きゃあ!」
「なんだこの揺れはっ」
「ククク……」
動揺する一同に、肩を震わせて笑う魔物。
「終わりだ、なにもかも」
執拗に人々を絶望させようとした彼がこの状況で笑っていることに、デューの背筋に本能的に悪寒が走る。
「ボクの力がなくなったら、この塔も崩れて消える。せめてお前らだけは道連れだ……落ちる瓦礫に巻き込まれるか海に叩きつけられるか……バラバラになっちまえッ!」
負けるとわかった最後の最後に自分もろとも、という道を選んだ魔物の、自棄気味にも聞こえる下品な高笑いだけがしばらく辺りに響く。
が、
「…………それで満足かよ?」
「なに?」
“総てに餓えし者”に、デューが静かに歩み寄る。
「お前は“仲間”を欲しがった。そして今も、道連れを作ろうとしてる。ひとりぼっちでこの世界に落ちてきて、ずっと寂しかったんだろ?」
「なにをいって……」
「こんな手段とらなかったら、もしかしたら仲間になれたかもしれなかったのにな」
ぴた、と魔物の動きが止まり、少年の姿をした騎士を見上げる。
その時だった。
「みんな、無事!?」
戦いでできた壁の穴から、塔の入り口付近で待っていたはずのキャティが顔を出した。
「キャティ殿、なにゆえここに!」
「さっきの爆発といい、なんか塔揺れてるしやばそうだったから見に来たの!」
彼女の背後には兄のパータが舵をとるブラックカーラント号も控えており、仲間達を受け入れる準備は出来ているようだ。
「良かった……どうなることかと思ったけど、これで脱出出来そうですね」
「そういうこと。目論みが外れちゃったわね」
さあ、帰りましょう。
イシェルナが振り返ると、船に気を取られているデューの背後で“総てに餓えし者”が不気味な笑みを浮かべているところだった。
「なっ……デュー君、うしろ!」
「あ?」
だが時既に遅く、振り向いたデューの視界が黒で塗り潰された……――
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