~交わる、その先へ~・2

 一方同じ頃、トランシュ達のチームでは。


「熱烈な歓迎だね、ずっと待っていてくれたのかい?」


 ドラゴンの姿をした黒い魔物の横なぎに払われた尾を飛び退いてかわす王都の英雄。


「っかぁー……ドラゴンと戦うお兄様、めちゃめちゃ絵になりますねぇ……」

「余所事を考えるなリュナン。それじゃあ背中は任せられないぞ」

「わかってますよ、っと!」


 言いながら迫りくるその他大勢の魔物を斧槍であしらい、背後のオグマに近付けないよう吹き飛ばす。

「ならいい」と口の端を上げたオグマの周囲に、冴えた空気が拡がっていく。


「こちらもいきますよ、スタード教官!」

「ああ、援護は任せろ!」


 群れの多くをリュナン達に引き受けさせて頭らしき竜を潰しにかかるスタードとトランシュの騎士団師弟。


「いけっ!」


 まずはスタードが距離をとりながら風の矢を番え、竜の目に向けて連続で放つ。

 下級術を応用した速度重視のそれは威力こそ低く殆ど弾かれてしまうが、敵の注意を上半身に集中させた。


「ほら、こっちだよ!」


 その隙に背後に回ったトランシュと、距離を詰めたスタードで挟み撃ちにしてしまう。


「さすが教官、動きやすいです」

「伊達に歳は食っていない。小賢しい戦い方なら得意分野だ」


 なぁ、デュランダル?


 スタードの内心での呟きは、今はこの場にいないもう一人の弟子に届いたかはわからない。


 世界の命運をかけた決戦を前にしているはずの四人は、心なしか楽しそうだった。


『……不思議ですね』


 風の大精霊が戦場を見下ろし、ぽつりとこぼす。


『頭上に滅びを突きつけられている連中の顔とは思えないんだゼ』

『これがこいつらの力なんだろうな』


 地精霊と源精霊もそれに続き、頷く。

 精霊である自分達は世界と共に消えることはそれほど怖くはないが、生身の人間が……まして、最前線で戦う彼等に、一片の恐怖もないといったら嘘になるだろう。


『足掻くと決めたら最後まで足掻く……遥か昔にも、そんな馬鹿野郎がいた。そして、今もだ』


 かつては契約者、現在は同じ精霊となった友を脳裏に浮かべ、万物の王は静かに笑う。


『そういう連中がいるから俺はこの世界が好きだし、力を貸したくなる』

『ですね』

『だゼ!』


 と、オグマがいる辺りから氷の柱が立ち上ぼり、花となって砕け散る。


『オグマが楽しそうだと、こちらまで胸が踊る……永らく忘れていた感覚だ』

「頼もしいな、蒼雪の舞姫」


 氷精の力を借りて多くの魔物を氷の華に屠ったオグマが、彼女に微笑みかけた。


「こっちはあらかた片付いた。このままいくぞ、リュナン!」

「はい、オグマさん!」


 残りの魔物は影も疎らで、もはや二人の敵ではないだろう。

 片や勢い良く突進し片や後方から魔力をこめた投げナイフで丁寧にサポートする二人は一糸乱れぬ連携を見せ、


「僕達も負けていられませんね」

「ああ、まったくだ」


 そんな光景にトランシュ達もまた、闘志を燃やすのだった。

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