~彼女の罪は~・4

 中央大陸グランマニエの中心、マーブラムのバルコニーにて。


「腕輪の効果は上々。各地に向かった騎士達は眷属を倒せてるようだぜ」


 手紙を携えた小鳥を撫でながら、マンジュの民の長代理であるウイロウは、文書の内容を読み上げた。


「……当然だ。世界一の名工が精魂込めて作り上げた腕輪と、我が騎士団の力があればな」

「アンタ大概わかりやすいよな……」

「なにがだ?」


 堂々と自慢する王にウイロウは呆れて口端をひきつらせる。

 けれどもそれだけ友人である名工の腕と騎士達を信頼しているということでもあり、それを隠しもしない正直さに好感ももてた。


「まあいい。マンジュの民にも世界各地で働いて貰うぞ」

「へいへい。物資の運搬と各地の状況の把握、それに情報の伝達、でしょう? ていうかもう働いてるって」


 マンジュの民には世界中に繋がる地下通路“九頭竜の路”がある。

 転移陣を使えば移動時間はほぼなしに等しいし、魔物と戦えなくてもできることはいくらでもあるだろう。


「味方につくと頼もしい限りだな」

「世界を見守る瞳として、その見守る世界を失う訳にはいかないからな」

「この戦いが終わったらその“瞳”とやらに戻るのか」


 手すりに腰掛け、王の前とは思えない態度で見下ろすウイロウにモラセスは問い掛けた。


「……基本的にどっかとつるむのは相当やばい時だけなんで、元の傍観者に早く戻りたいぜ。ていうか俺そもそも気楽な根無し草やってたんだけどなー」

「そうか」


 その気楽な根無し草は、マンジュの長である女性に捕まってこうして代理をやらされているのだとモラセスも知っていた。

 詳しい事情までは知らんがふらふら逃げ回ってないで観念したらどうだ、と王は自分を棚に上げてそう感じた。


「んじゃそういうことで」


 と、ウイロウは手すりを降りると、軽く手を振って立ち去ろうとする。


「どこへ行く」

「ちょっとあちこち指示を飛ばしにな。それに、王様もちょっと一人になって休憩した方がいいんじゃないか?」


「それとも」と続ける声音は意地悪く、探るように。


「……お孫さん達が気になる?」


 現在世界中を巻き込んだ騒ぎの渦中にあるツギハギの塔にいるらしい“総てに餓えし者”を倒し、隕石の落下を阻止するために空から乗り込んだ者達。

 孫であるトランシュとミレニア……それにウイロウの弟子、イシェルナもその中にいる。

 心配ではない、と言えば互いに嘘になるだろう。


 モラセス王は大きく息を吐くと、


「俺も直接乗り込んで暴れたかった」


 そう答えた。


「そりゃ怒られるぞ」


 誰にとは言わないけどな、とウイロウは笑う。


「落とし前をつけに行きたいだけだ。王として、世界を好き勝手している愚か者に……な」

「おお、怖ぇ怖ぇ」


 それじゃあ今度こそ退散、と残してウイロウはその場を去った。


 冗談めかした空気だったが、実際は……


「本当に……乗り込めるものなら乗り込んでいる」


 自分にとり憑き操っていた魔物を逆に取り込んで以来、身ひとつで空も飛べるようになったモラセスの独り言は、冗談には聞こえなかった。

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