~小さな希望~・2
王都での出来事から少し時間は巻き戻り、結界の消えた聖域では。
一見すると毛むくじゃらの壁に見える聖依獣の長老、ムースの口から飛び出した言葉を、デュー達は静かに聞いていた。
世界各地に散らばる地点に“楔”を打ち込む。
それがどういう意味なのか、そして遅かれ早かれ世界中に染み出すであろう障気から、アラカルティアを守る術となり得るのか。
これまで何も知らなかったデュー達には解決策など浮かぶわけがなく、おそらく、これを逃せば世界は滅んでしまうのだろう……固唾をのんで、次を待った。
「おぬしらはマナスポットを巡っとったみたいじゃが、それらにも力の強い場と弱い場があるのは知っとるか?」
「北の霊峰のようなところでしょうか……?」
おずおずと、オグマが尋ねる。
長身の彼からしてもやはりムースの巨躯は見上げるほどのもので、ただただ質量による威圧感を感じた。
「そこが今から言う地点のひとつじゃ。力の強い場で、位置的にも良いのが霊峰アラザンにセルクル遺跡、それに王都の地下のマナスポットになる。おぬしらには、そこに向かって貰いたいんじゃ」
「そこには何が?」
「世界の要となる地点のマナスポットにじゃな……えーと、」
言いながらムースは視線を巡らせ、オグマとフィノ、そしてミレニアを順番に見た。
「この中で、特に術の素養が高いのがおぬしら三人じゃな。ちと、難しい術を授けるぞ」
「なにかの? むーちゃん」
こっちに来い、と言わんばかりに長い耳を手招きするように動かすムースの周りに三人が集まる。
「……今から授けるのは“楔”の術じゃ。これをマナスポットに打ち込み、簡易的な結界を張る」
「そんなことができるんですか?」
「おぬしら自身とそこのマナを使って、のう。それでもそー長くは保たんし、カミベルの結界ほど強くはないから完全には防ぎきれん」
多少は上の世界に影響が出るじゃろ、と付け加えるとシュクルやリュナンがあからさまに落胆の色を見せた。
「けど、対策を練る時間は作れるってことだろ?」
「うむ。何もしなきゃ、このままおしまいなんじゃろーからの」
デューが進み出るとミレニアが強く頷く。
「じゃから、わしはやる! 終わるなんてまっぴらごめんのきんぴらごぼーじゃ!」
「ミレニアちゃん……そうね。わたしだって、できることはしたい」
「そうだな。たとえ……いや、不吉なことは言わないでおこう」
フィノとオグマもそれに続き、意思を確認したところでムースも笑った……ように見えたがやっぱり毛に埋もれてわからなかった。
「うむ。しばらくこの三人を預かるぞ……他は休むなり、この里でも見て回ってくるといい」
「ぱぱっと終わらせてくるからの、任せておくのじゃ!」
小さな希望を授かる少女の頼もしげな言葉に背中を押されるようにして、残りのメンバーは聖域をあとにする。
(あいつ、無理してなきゃいいけどな……)
一度だけ振り返ったデューの視線に、彼女は気付かないまま。
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