~決別~・4
デュー達が去った花畑に、再び足を踏み入れる異形の足。
「スタードは一命をとりとめたか……しかし臣下をこの手にかけた以上、もう戻れぬな」
己に言い聞かせるような静かな呟きと共に、王は翼を変形させ、尾を生やし、老いた武人の肉体はさらに黒い皮膚に覆われて。
上質な霊峰のマナをたらふく喰らった身には、力が充ち満ちていた。
その姿はもはや中央大陸の王ではなく、禍々しくも哀しい魔物のものだった。
「戻れるわけがないのだ、こうなってしまっては」
と、覇気の如く纏った黒いマナが足元の花に触れた途端、可憐なそれがみるみる萎れて頭を垂れてしまうのを視界の端に見つける。
もう、ここにも戻れない。
想い出の花畑をこれ以上喰らい尽くしてしまわないよう、散らしてしまわぬよう、王はマナを操り抑え込むとそっと翼を羽ばたかせて大柄な身を浮かせた。
その所作や花を見つめる瞳は信じられないほどに優しく、細心の注意を払って。
そうして僅かに人の心を垣間見せたモラセスだったが、すぐさま紅眼に闇が落ちた。
「世界の敵として討たれるか、悲願を果たすか……どのみち、終わりは近い」
仮にカミベルを聖依獣達から奪い取れたとしても、結界を失ったアラカルティアに未来はない。
今のモラセスの進もうとしている道には破滅しかないのが、誰の目からも明らかだ。
それを重々承知した上での“終わり”なのだ。
「……もうすぐだ、カミベル。もうすぐ終わる」
どういった形であれ夢見たそれを間近に感じ、王は天を仰いだ。
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