~霧深き山脈の騎士~・3

 オグマと二人、さらに進んで行くとようやくミレニア達がいる上の道と交わった。


「お、デュー!」

「そっちも無事だったようだな」


 そこにはミレニア達もいて、デューを見つけると嬉しそうに表情を輝かせた。


「良かったわ~、シュクルちゃんも淋しがってたものね☆」

「だ、誰がだッ!……余はこのふざけたノリに疲れ果てただけぞっ!!」


 ミレニアの肩の上でシュクルが喚く。

 さっきまでのテンションの差にオグマは面食らったようだった。


「……賑やかな仲間だな」

「騒がしいだけだ」


 と、ミレニア達はオグマの存在に気付いたようで、


「おりょ?……デュー、そっちのでっかいのは誰じゃ?」

「え、あ……わ、私は……」

「あらあら、なかなかイケメンさんじゃなぁい☆」

「い……いけめん……?」


 じりじりと歩み寄られてたじろぐオグマの前にデューが割り込んだ。


「こら、お前ら……あまり怖がらせるな」

「失礼じゃの~、まるでとって喰うみたいに……」

「喰いそうに見えたぞ。特にイシェルナ」


 じろりと睨むとイシェルナは「いやん★」と舌を出した。


「オグマは……下で会ったんだ。ここに来るまで同行してくれて、正直助かった」

「あ、いや……私は何も……」


 感謝の意を込めてぺこりと一礼するデュー。


 この辺りに住んでいるというだけあって、オグマは頼りになる同行者だった。

 ここまでさほど労せず来られたのは彼の案内があった事と、何よりその戦闘能力。

 治癒術以外にも様々な術を使いこなし、接近戦では体術と短刀を駆使した素早い立ち回りと隙のない戦い方をする。


 人里離れた所に、それこそ隠れるようにして住んでいるらしいが、一体何者なのか……


 ……と、ここまでの道中を思い返しているとミレニアがじろじろとデューの顔を覗き込んでいた。


「ほ~ぅ、わしら相手とは違ってやけに素直じゃの?」

「……お前らの前で素直になってもろくな事なさそうだろ」

「むぅ……デューのくせに生意気じゃ」


 子供達のそんなやりとりを眺めていたオグマが思わずクスリと口許を綻ばせた。


「何がおかしい?」

「あ、いや、すまない……君達は仲が良いんだな、と」


 そんなオグマをデューが不満そうに見上げるが、


「!……みんな、避けろ!!」


 上に魔物の影が見え、そう叫ぶのと同時にそれぞれ動く。


―ズズゥゥゥン……!!―


 さっきまでデュー達がいた場所にいくつも大岩が降り注ぎ、翼を生やした四つ足の獣が降りてきた。


「こいつは……みんな、無事か!?」

「な……なんとかの……」


 ミレニアはシュクルを抱えてその場を逃れていた。

 イシェルナやオグマもどうやら無事なようだ。


「さて、どうするか……」


 魔物の射殺すような眼光が一行を捉える。

 どうやらこのまま見逃してはくれなさそうだ。


「来るぞ!」


 オグマは鋭い爪の一撃を避け、術の詠唱を始める。


「鉄壁の護りを……」


 薄い光の膜がイシェルナの身体を覆い、守備力を高める。


「それで少しは持ち堪えられるはずだ」

「ありがと、色男さん♪」

「わしの助けも必要かの?」


 一方ではミレニアがデューに攻撃力を上げる術をかけていた。


「礼は言わんぞ」

「時間稼ぎしてくれりゃ上等じゃ☆」


 言葉通りデューとイシェルナは後方で術を唱える二人に魔物の攻撃が届かないように自分達に注意を引きつけながら戦う。


「飛べ、氷の矢!」


 オグマが空中に氷の刃を作り出し、魔物に向けて放つ。

 怯んだ隙にさらに畳み掛けるように術を発動させたのは、ミレニアだった。


「とっておき、ゆくぞ……シュクル?」

「う、うむ!」


 シュクルがミレニアの肩から降りるとその身が青白い光に包まれる。


(……この小娘、聖依術を己のモノにしておるのか……?)


 怪訝そうに少女を振り返るのは一瞬だけの事。


「……清流の依りべ、その身に宿せ水聖霊!」


 小さなシュクルの身体が大きく、そしてどこか神秘的な姿の蒼い獣へと変わる。


「この術は……!」


 オグマの呟きはシュクルが魔物に飛び掛かる音で掻き消えた。


 強力な一撃に魔物が悲鳴をあげるとすかさずシュクルが離れる。


「今ぞ、デュー!」

「わかってる!」


 デューが大剣で斬り上げ、その勢いのまま続けて振り下ろす。

 弱った所に決まった二連撃がとどめとなり、魔物は叫びをあげて倒れる。

 それきり沈黙してしまったのを確認すると、イシェルナが溜息を吐いた。

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