~霧深き山脈の騎士~・2
一行は、霧と魔物に苦しめられながらもどうにか山道を進んでいった。
新たに旅の仲間に加わったイシェルナは、やはりというか只者ではなく、華麗な格闘術で魔物を退けていく。
「みとれてるヒマ、ないわよん♪」
長い脚が弧を描くように敵を蹴り上げ、自らも空中に跳躍すると追い討ちで踏みつける。
流れるような一連の動作は溜息が出る程美しかった。
「わしも負けられんのぅ……ガンガン降っちゃれ岩の雨!」
負けじとミレニアが魔術で岩を降らせ、空中の魔物を撃退する。
「こうかはばつぐんじゃ☆」
全て片付けるとビシッと決めポーズ。
以前に橋で会った三人組に影響されてかどうかは定かではない。
「真面目にやれよ……」
「これで実力はあるのだから何とも言えぬな……」
ふざけているように見えるが、実際は隙のない連携や魔物の弱点を突いた攻撃とかなり真剣に戦っている。
(確かに、オレ一人じゃ苦戦してたかもしれない……)
実際、彼女達の力はあらゆる場面で助けになっていた。
直接攻撃に強い魔物にはミレニアの魔術が、傷を受ければイシェルナが気を用いた治癒術で治してくれる。
それに口では迷惑と言っていたが、やはり記憶喪失の子供の一人旅はいろいろと厳しいものがある。
何だかんだでこうなって良かったのかもしれない、などとぼんやり考えていると……
―ガラッ……―
「え?」
デューの足元が崩れたかと思うとぐらりと身体が傾ぐ。
「うわぁぁっ!?」
「デュー!」
体勢を立て直す間もなく派手な音を立ててそのまま落下する。
慌てて仲間が駆け寄り、下を覗き込むと、
「デュー君、大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ……が、ここからじゃ戻れそうにないな……こっちにも道はある。そのまま進んで行って、どこかで合流しよう」
「わかった……気をつけての」
何とか無事だったらしいデューの声が聞こえ、ミレニア達は安堵した。
だが彼一人ではこの山道は危険だろう。
「さっさと進んで、迎えに行かなくちゃのう」
「足元に気を付けながら、ね。落ち着いて急ぎましょ」
「む、無茶苦茶言うな……」
二人と一匹は再会を信じて、さらに先へと向かった。
―――――
一方、落下したデューは……
「……大丈夫とは言ってみたものの……」
擦り傷だらけの身体で立ち上がると埃をはたく。
ここは上ほど霧が濃くないが、それでも見通しはあまり良くない。
(早く合流しないとな……)
いつ魔物に襲われるかもしれない、と剣の柄に手をかける。
と、
「……子供か?」
「っ!」
ふいに後ろからかけられた声にデューは咄嗟に剣を抜いて構えた。
「誰だ!?」
「あ、その……」
長身の男が驚いた顔でデューを見下ろす。
水浅葱の瞳に顔の右半分を隠す青褐色の髪。
後ろは長く三つ編みをしているが何よりの特徴は、白いコートを纏った身体の、右腕がない事。
「驚かせて済まない。大きい音がしたものだから……落ちたのか?」
「……ああ」
「この近くに私の家がある。良ければそこで手当てを……」
男の言葉にデューは、こんな辺鄙な所に住む奴もいるのかと思ったが、
「……いい。この先で仲間と落ち合う事になっている。早く行かないと……」
「ならせめて、その怪我の治療をさせてくれないか?」
男はデューの前にしゃがみ込むと、左手を翳して目を閉じた。
「癒しの光よ、集え」
あたたかな光が包み込み、みるみる傷を癒していく。
デューは男を怪訝そうに見上げたが、男はその視線には気付かなかった。
「……一人では危ない。仲間と合流するまで私も一緒に行こう」
「また子供扱いか……」
「?……大人でも危ないぞ、この山道は」
どうやら男に他意はないらしい。
「……まぁいい。オレもこの辺りには詳しくないし……えーと、」
デューが男を何と呼ぼうか迷っていると、それを汲み取ったらしく、
「ああ、私の名はオグマだ。君は?」
「……デュー」
「そうか、よろしく頼む」
そう言いながらあまり表情の変わらないオグマに「また物好きが……」とデューは仲間達を思い出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます