2ページ
「ずっと前から、ですか?」
「うん。中学生の時、友達が好きな男の子が出来たって言った時どういうことか理解できなくて。その気持ちが分からなくて。それからずっと分からなくて、って今も分からないんですけど。変だって言われて、悩んだ時期もあったんですけど、なんかもういいかなって思って」
なんかもういいかなって?
「だって分からない事を悩んだって意味ないじゃないですか。だって知らないんだもん。そんなことに囚われているくらいなら、自分の好きな事をしようって思って」
「好きな事ですか」
「そういう好きは分かるから。だから今の会社に入ったんです。家族とか友達に対する好きは分かるから。自分の好きもちゃんと分かってるんで」
ふぅ、と上に上げた紫煙が揺らいでは消える。吐き出した後の朝倉さんは憂いでもなく、晴れる訳でもないが、満ちているように見えた。
「でもどこかで、まだ恋愛の好きを理解できる日が来るんじゃないかなって思っていて。諦めたわけじゃないって言ったら違うんですけど、そう言う経験を一回くらいしてみてもいいかなって」
ギュっ、と灰皿に押し込んで消した煙草には赤いリップが移っていた。
「それまでは自分の事を一番好きでいようかなって」
変ですか? って首を傾げて訊いたのに、その答えはもう朝倉さんの中にあるのだろう。その表情を見ればわかる。
「素敵ですよ」
「マスターならそう言ってくれると思った」
好きとか嫌いとか、愛とか恋とかそう言うことじゃなくて、朝倉さんの一生が素晴らしいものになればいいなと、そう思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます