すきと好きとスキと透き

カゲトモ

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 人生の中で、何度人を愛することが出来るだろうか。


なんて、ラブソングの歌詞のような言葉が浮かんでくる。その答えは“人それぞれ”が妥当だろう。答えになってはいないだろうけど。

 何人もの相手を愛せる人もいれば、たった一人しか愛せない人もいる。例えば彼氏が途切れない晴海さんとか、初恋の浩太郎さんをずっと思い続けている蘭子さんとか。それは個性とか性格とか環境とか、そう言ったものが要因な気がする。

 だからこそ、誰も愛せない人もいる訳で。

「あんまりうっとうしいから、今年は帰省しなかったんですよ」

 ワンレンボブがよく似合う朝倉さんは、髪を耳に掛けながら言った。現れた耳にはシルバーのピアスがいくつも飾られている。

「ご両親ですか?」

「んーん。両親は知っているから、もう言わないけど、親戚がね。おじとかおばとか煩いから」

 薄化粧でも美人、いや美人だから薄化粧なのか、整った顔立ちの朝倉さんはモテそうなのに恋人は一人としていない。生まれてから今までの間ずっと。

「自分のとこに孫が生まれたりしているから自慢したいんだと思うんですけど、もううっとうしいくらい言ってくるから。あんたはいつ結婚するの、彼氏はいるの、良い人はいないのって」

 うんざりですよ、と愚痴りながら仰いだのはロックのウイスキー。グラスを持つ細い指には煙草が挟まれている。電子煙草は合わなかったと言っていた。

「だから帰るのやめちゃった。両親には悪いけど」

「そうでしたか。では新年はどのように過ごされていたんですか?」

「んー、普通ですよ。初詣行ったり、テレビ見たり。帰らなかった分、ゆっくりできたかなぁ」

「それはそれは、朝倉さんはいつもお忙しそうですから、ゆっくりできた様でなによりです」

「ふふ、仕事が好きなだけですよ。忙しいのは仕方ないです」

 朝倉さんの仕事は女性用下着メーカーの営業さんだ。しかも敏腕だとかなんとか。

「まぁ楽しいだけが仕事じゃないですけどね」

 きっとアメとムチの使い方が上手いのだろうなと、ニッと微笑んだ表情に思う。

「でもこの仕事を選んでよかったなって、好きな事を仕事に出来たから。男とか女とか、結婚とか出産とか、そんなこと関係なく好きな事をして生きていきたいなって、そう思うようになったのは結構最近ですけど、多分ずっと前から、それこそこの会社に入る前からぼんやりと思っていたと思うんです」

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