0

【さいたまの中一少女が不明】

埼玉県警浦和警察署は六日、さいたま市立■■中一年の錦戸真布由さん(一三)が三日午後から行方不明になっているを明らかにした。有力な情報がなく公開捜査に踏み切った。事件と事故の両面から署員らが自宅周辺を中心に捜索している。


   ■■新聞二月六日朝刊


   ※※※ ※※※


 山手線の電車が池袋駅のホームをゆっくりと出発する。山手線に快速電車はない。環状に結ばれた全二九駅を各駅停車で回る。電車の中に張り出された駅名は、わたしでも知っている有名な駅ばかりだ。池袋、渋谷、新宿、品川、東京、秋葉原……


「どこで降りる?」


 わたしは三人に尋ねた。


「ちょっと待って。いま考えてるの」アキが答えた。フユとともに東京のガイドブックにかじりついている。「原宿でショッピングでしょ。スクランブル交差点を望みながらお茶するのも悪くないし、新宿御苑だって行ってみたいわ」


「上野を忘れてますよ」フユが確信を持って言った。「パンダは見ておかないと」


「いいわね。でも余計に迷っちゃう」


「どこでもいいよ」ハルがにっこりと微笑んで答えた。「行きたい場所があるならそこでいいし、景色を見ていいなって思ったらそこで降りちゃってもいい。時間はいくらでもあるんだから」


 わたしはうなずいて、窓の外を眺めた。電車はメトロポリタン駐車場の脇を過ぎ、西武池袋線の下をくぐっていく。


 今日ははじめて尽くしだ。四人で学校の外で会うのもはじめてなら、遊びに行くのも、東京に行くのもはじめて。きっと時間はいくらあっても足りない。だけれど、きっと心配する必要はないのだろう。わたしたちにはいくらでも時間がある。悩んでる間に山手線が何周したってかまわないのだ。不思議とそう確信している自分がいる。それがなぜなのかは、わからない。わかるのは、今日が最高の一日になるだろうってことだけ。それさえわかれば十分だった。


「楽しみだな」


 誰にともなくつぶやく。電車は目白駅に着こうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る