第13話 美少年好きの兼実さま(玉葉)

 今日は貴族日記についてご紹介します。平安時代の貴族は、儀式の段取りや会議での発言を子孫に伝えるため、日記をつけていました。

 土佐日記や紫式部日記のようなひらがなではなく、漢文で書かれています。紀貫之が女性のふりをしたのは、男は漢文で日記を書くのが一般的だったからです。

 しかし、そのまま読むのは難しいので、私は書き下し文や現代語訳があるものを中心に読んでいます。


 貴族日記は色々ありますが、今回はじょう兼実かねざねの『ぎょくよう』について紹介します。

 九条兼実は平安末期の摂関せっかん家(=摂政や関白を輩出しているトップ階級の家)の貴族です。


 日記には愚痴や自慢や萌えなどの個人的感情があふれていて大変個性的です。

 中でも私が感じた『玉葉』の特色の一つとして、


 かわいい男の子に関する記事が丁寧


 ということがあります。

『玉葉』では、15歳以下の少年に関しての年齢表記や容姿・ファッションの描写はかなり丁寧に書かれています。


 現存記事で登場する初美少年は承安2年(1172年)2月12日の記録に出て来るたいらの維盛これもり14歳なので、超絶美少年の維盛を見て兼実様が美少年に目覚めてしまった可能性があるかもしれないなと個人的に思っております。(※平維盛は平清盛の孫で、美青年として有名な人でした。)



 ちなみにですが、当時の貴族がかわいい男の子大好きなのは珍しいことではございません。兼実さまの名誉のためにフォローしますと、彼だけが特殊な性癖というわけではないので、よろしくお願いします。


 兼実さまの日記の記事の話に戻りましょう。

 後白河法皇の50歳おめでとうパーティ(正式には安元の御賀といいます)のリハーサルについての日記。

 5歳(※10歳という説も有り)の男の子が舞を舞った際の描写と、その後褒美を受け取りに行くまでの様子を(気持ち悪いほど)詳述しているのが特徴的です。

 褒美を受け取りに行くときに、急に呼び出されてびっくりした男の子がうっかり靴を脱ぎ忘れてしまい、男の子の親戚が慌てて靴を脱がせに行ったところまで詳細に書いているのは、兼実さまの萌えポイントがそこだったんだろうなあと察せられます。

 パーティ本番の日。この子の舞が先例にのっとって中止になった(らしい)ときは、普段先例を何より重視するはずの兼実さまが、


「こういうときは、むしろ先例通りにする方がだめだと思う」


 みたいな激おこ記事を書いており、どんだけ楽しみにしてたんだよとつっこみたくなります。

 ちなみにこのとき、1番はじめに褒め称えられていた維盛さんも、「青海波」という舞を舞っているのですが、もちろん兼実さまはべた褒めです。


 兼実さま自身も音楽には通じており、特に琵琶の名手として有名でした。そのため、音楽関連のことには大変やかましいのも特徴的です。


 たとえば、藤原 成親なりちかという貴族が笛の担当だったのですが、彼の演奏のタイミングがずれている(多分今でいうならば、入るタイミングが一小節ズレてるみたいな話)ということを延々と書いています。めっちゃ文句言うじゃん……っていう感じ。

 ついでに後日、「なんで間違えたの?」と、部下的なポジションの貴族を使って本人に聞きに行かせています。

(※ちなみに成親本人は「俺のせいじゃないです。拍子担当の人に合わせたらそうなったんです」と言い訳してます。要するに、自分は指揮者に合わせただけだから、問題があるなら指揮者!と言いたいらしい。)


 また、清盛の娘が子供を産んだお祝いの席で、演奏者に平家関係者が多かったことについて、


「どうも演奏者は実力関係なしのコネ采配だったらしい。納得いかない」


 と記し、


「よのかんがえたさいきょうのえんそうしゃ」


 を併記しています。

 私個人としては、平家のお祝いなんだから別にちょっとくらい良いじゃん……と思うのですが、兼実様は真面目なのです。(あと平家嫌い。)

 よっぽど周りの貴族にも言いふらしたのか、平家サイドにもその話が伝わったとみえ、二日後のお祝いの席での演奏者は、

「よのかんがえたさいきょうのえんそうしゃ」

 通りの采配に変わってました。

 唯一笛の演奏者として平家から維盛が出たことだけ兼実の希望とは違ったのですが、それに関しては全く文句を言いません。(維盛大好きだな!)

 この当時兼実は右大臣でしたので、平家も兼実様のご意見を無視するわけにはいかなかったんだと思います。



 さて、今回はこのへんで。

 他にも『玉葉』には色々と面白い記事があるので、また他の貴族日記も含め、おいおい紹介したいなぁと思います!

 読んでいただきありがとうございました。

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