幕間

ーーー

時を同じくして、雨上がりの放課後。付属校の校門前は生徒の迎えに来る保護者たちの車で溢れかえっていた。その中には茉理の父の姿もあった。

次々と生徒が自分の親(の車)を見つけ、帰路につくのだが、茉理は一向に現れない。

しばらくして、父の携帯にメッセージが入る。


『お父さんへ

悪天候だったので、もしかしたら、迎えに来てくれたでしょうか?

もしそうなら御免なさい。

徒歩にて、すでに帰路についています。

今日は食料品の買い出しをする日なので、

これからタイムセールに向かいます。

お仕事、頑張ってください。

茉理』


「茉理・・・。」

父子家庭である花園家は食事の支度や洗濯など、家事を分担している。

元々は母の死から塞ぎ込んでいた茉理を無理にでも部屋から引きずり出す口実だったが、父の作戦は見事に当たり、茉理は家事によって気を紛らわらせることに成功した。(タイムセールや洗濯のシミ抜きに凝りだしたのは、父にとっては頭が上がらない状況になってきているが。)


そして、

目立つことを好まない茉理が、天才少女の鳴り物入りで飛び級をしたのは経済的な問題からである。異例の編入学は入学金、学費の免除だけでなく、茉理の研究による特許の還元も大幅に増額される。そのことを知った茉理はわき目もくれず勉強に打ち込んでいた。ストイックに自分を追い込むあの性格はこの受験の影響が大きい。


だが、それでも茉理が心を開くキッカケとなった事件がある。

それは怪我をしたカラスが紛れ込んだこと。

そのカラスを介抱するとともに、塞ぎ込んでいた茉理は徐々に普通の生活をするようになった。


黒くて不吉なことを呼び込む害獣であると一般的には嫌われるカラスだったが、このカラスは花園家にとって家族も同然だった。

だから、

ここ最近、カラスが居なくなってから、茉理はショックで数日間、高熱を出した。


あのカラスは戻って来ていないが、新しく舞い込んで来た尾の長い赤いインコ(?)を飼いだしてから、

また、“女子大生のお友達”が出来てから、

茉理は以前よりもさらに明るくなった。


茉理の父からはそんな風に見えていた。


そして父はメッセージに返信をする。

『了解。

美味しい料理を期待してるよ。

父より』

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