2-4 ヤタガラス編14

ーーー

赤とオレンジの作り出す、ナトリウムの炎色反応のような炎の壁に周囲を覆われた渦の中で茉理は目を覚ました。燃え上がる炎に包まれているというのに熱を感じない。そのことでそこが現実空間ではないことを理解する。

「こ、ここは・・・地獄?」

周囲に広がる炎の壁を目の当たりにし、状況を冷静に判断して、【死、イコール、天国】と言わないところが実に茉理らしい。


『まだ死んではいない。ここは、貴女の精神の空間。そこへ私が介入をしているの。』

介入をしている主は声だけで、その姿を確認することは出来なかった。

「・・・。貴方はいったい誰ですか?」

『私の名前はフェニックス。

生命と炎を司る召喚獣よ。』

「上位召喚獣フェニックス?!

フェニックスがどうしてこんなところへ?」

『呼ばれたから来たまでよ。

召喚獣とは本来、そういうものでしょう?

上位も下位もないわ。』

面倒臭そうにそう答える。


(呼ばれた?召喚したのはあのお姉さん(マヂカ)ということか。私が作戦に失敗したから次の一手を打ったそんなところだろう。ただそうなると、疑問点が生じる。)

「で、では何故、私の意識に介入しているのですか?」

『何故?・・・。

作戦に失敗した自分はお払い箱。そんな風に考えているようね。』

「・・・。」

『自虐的というかなんというか・・・。』


暫しの沈黙。

その間に茉理とフェニックスのそれぞれには思うところがあった。

そして、その沈黙を破ったのはフェニックスの方だった。


『貴女は今、もともと備えていた生物使いの治癒も追いつかぬ致命的な傷を負い、魔法使いとしてだけでなく、人間としても生死を彷徨っています。』

「・・・。」

『もし貴女が望むのならば、私が新たに理科のチカラを授けましょう。』

「!?」

その言葉の意味するところ。

「フェニックスが使い魔になると言うのですか?」

『貴女が私の契約者となる意思と目的があるのなら。』

「意思と、目的・・・。」


フェニックスは契約の条件に【資格】とは言わなかった。それは、人間である限り、理科に触れることなど当たり前だからである。

あくまでも理科を学ぶ意思があるのかどうか。

それは、人間として生きるのか、理科を捨てて死ぬのかどうか、その選択でもあった。


「私は自分の生き死にになんて興味はありません。

ですが・・・。」

脳裏にヤタガラスと残された家族である父の顔、そして亡き母の思い出が浮かび上がる。

茉理がは炎の大地に膝を立て、

「死ぬわけにはいかない。

やるべきことがあるんです!」

身体を起こして立ち上がる。


『では、その目的のためにチカラを貸しましょう。』


キャンプファイヤーのような大きな火柱は中央に集まるように火球となり、茉理の賢者としての衣服、アオザイと仮面を燃やして灰とした。

そして、火の粉と煙を撒き散らし爆散する。



魔法少女マジカルマツリ

ロールアウト!!


変身が完了するとともに、致命傷だったマツリの傷は体細胞分裂を高速で行うことで癒えていく。

これは、マツリ自身の持つ理科のチカラではなく、人知を超えたフェニックスの特殊能力、転生の炎“リヴァイヴァ”によるもの。


新しい衣服は・・・結局、アオザイ。ただ、白からフェニックスの赤い炎を汲み取ってか、薄いピンク色になり、足首まであったカンフーズボンはホットパンツに、カンフーシューズはバレエのトゥーシューズになっている。(違いが分かりにくいが。)

また、仮面と鉄扇はなくなり、お団子状に纏められた髪には金色のカンザシが刺さっている。


現実世界で意識を取り戻した茉理ちゃん、いや、マジカルマツリは自分の姿をまず確認して、

「こ、これは、魔法少女?!」

使い魔として小さくなったフェニックスに詰め寄る。

「騙したのですか?!」

「騙した?イノチの恩人に向かって、しつれーね。賢者の契約だと勝手に勘違いしたのはソッチでしょ?」

「じょ、上位召喚獣が魔法少女契約するなんて思うワケがないでしょう!賢者の契約だって異例中の異例なのに。」

マツリの言葉を聞いたフェニックスが炎の羽根を広げて声を低くした。

「何それ?それがジョーシキ?

全然ダメ。普通とか一般とか、当たり前なんていうのは人間族が勝手に引いた諦めのラインなの。

型と形、道理と真理は意味が違うってことを学びなさい。」

「あなたこそ、もっと常識を学んでください。」

「知っているわよ。知識として。」

「実践するんです!」

「必要があればね。」

出会って間もないはずなのに、既にデコボココンビだ。


「あなた、本当に上位召喚獣、フェニックスなんですか?」

その問いかけには、カトブレパスが答えた。

「うむ。この性格の捻じ曲がり具合と良い。フェニックスに間違いない。」

「うぅ・・・。」


「あのねー。私が魔法少女契約したのは貴女とヤタガラスの契約の上書きをしちゃいけないと思ったからなのよ。」

「えっ?」

「私と賢者の契約をすれば、ヤタガラスは貴女との繋がりを失ってしまうの。」

「・・・。」

その言葉はマツリの心に響く。

が、・・・アレは絶対、嘘だ。

私との交渉で“面白くないから”とハッキリいっていたし。しかし、その顛末を知る由もないマツリはフェニックスの出まかせに耳を傾ける。

「貴女には目的がある。その一つはヤタガラスのことなんでしょ?」

「・・・。」

「主たる目的を見失ってはダメよ。マツリ。」

「フェニックス・・・。」

その場の勢いに押され、マツリはなんとなくフェニックスの言い分を受け入れていた。でも、どうだろう。目的を見失わない限り、それ以外は巫山戯(ふざけ)たい。そんな風に取れるのは私だけだろうか?

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