1-13 ヤタガラス編12

フェニックスは宙を優雅に舞いながら、その炎で闇夜を照らしてゆっくりとケヤキの木に止まった。

「フェニックス・・・。

こんな時に何をしに来た?」

「助けてあげたのに御挨拶ね。

ここに来た理由?特にないわよ。」

「ならさっさと帰れ。こんな闇夜にお主の炎は目立ち過ぎる。

人間に目撃でもされれば厄介なことにもなるしのぅ。」

「何よ、せっかく“来てあげた”のに。」

「要らぬ。」

カトブレパスとフェニックス。犬猿の仲は取り付く島もなさそうに、対峙してからものの数分で露呈した。

「あ、あの。来てあげたっていうのは?」

「ん?私たちは召喚獣よ。

召喚獣とは本来、人々の呼びかけに応えて現れる精霊であり、魔法陣によって呼び出されるわ。

狼煙は召喚獣を呼び出す魔法陣の代わり。巫女やシャーマンがやっていた最も原始的な召喚のやり方なのよ。

まぁ古すぎて向こうの世界じゃあ、全員、ほぼ無視だったけど。」


「(Divine)神々しい、(fume)霧煙。

そういうチカラか。なるほどのう。」

どうやらケットシーがあのキャンプファイヤーでフェニックスを呼び出したのは間違いないらしい。ディバインズヒュームは文字通り狼煙(のろし)の役割だったというわけだ。

狼煙は離れた場所にメッセージを伝えるために考案されたものであるが、人工衛星や電波探知、離れた場所に情報を伝える手段の基礎である。



「しかし、召喚獣が召喚獣を呼び出すとは・・・。

世も末じゃのう。」

「カトブレパス。質問なんだけど、あの狼煙はフェニックスを召喚するためにあるチカラってことなの?」

そうだとすれば、使用する度にケットシーはオーバーヒートしてしまう。それは供給元の私もかなり消耗するわけで、切り札としては問題点が大きすぎることになる。

だが、私の懸念点に対して、 ディバインズヒュームの能力は至極真っ当なモノだった。

「いや、そうではない。

このチカラは、その時に最も必要とするモノ、もしくは望むモノを呼ぶチカラ。」

「呼ぶチカラ。」

今であれば、絶対絶命の私に迫るヤタガラスを追い払うためにフェニックスを?

・・・いや、違うな。単純にフェニックスに会いたいとか願ったんだろう。この化け猫は。


先ほどのフェニックスの話にもある通り、他の召喚獣たちも向こうで狼煙を確認している。

それに相手が答えるかは任意。相変わらず、確実性に欠けるチカラだ。

物質などの呼び出しも出来るのか試してみたい気もするが、使い魔の特殊能力はあくまでも私たち魔法使いの補助であり、正規の理科の理論に基づいているわけではない。理科使いはそんな曖昧なものに頼りっぱなしでいけない。

使い魔の特殊能力が補助系しかないのはそういう理由があるのではないだろうか。


「ところで、ケットシーはどうして寝てるの?」

「いや、狼煙を使ったら、オーバーヒートしちゃって。」

「上位召喚獣なんぞを呼びたしたんじゃから、こうもなろう。」

「ふーん。」

ケットシーの熱意に対して、フェニックスは意外にドライだった。ちょっと可哀想。


「まぁいいわ。別にカトブレパスの顔なんてそれほど見たいわけでもないし。他に用がないなら帰ろっかな。」

「フン。帰れ帰れ。

勝手に放浪でもなんでもしておれ!」

「放浪じゃ、あーりーまーせーんーっ!探求の旅でーすーっ!」

「召喚獣の責務も果たさず何が探求じゃ。」

「もういいっ。それじゃあサヨウナラ!」


私は身体を乗り出して、

「あ、いや。待って!

待ってください。用なら有ります!!」

フェニックスを引き止めた。

「何?」


「あなたと、契約したい。」


つづく。

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