1-12 ヤタガラス編11
「それじゃあ行くよ!」
一旦、私の肩から降り、ルナティックレインとは別の、もう一つのチカラを使用した。
「“ディヴァインズ・ヒューム”!!」
ケットシーがチカラを使うと、辺りに季節外れの木枯らしが吹いた。今は六月だ。
「こ、これは?!」
その風で巻き上がった木の葉は一箇所にまとまり、こんもりとした山のようになった。まさにチリも積もれば何とやら、である。
木枯らしが止むと、集まった木の葉が落ち葉焚きのように中心部から煙を出して燃え始めた。
ほどよく乾燥されたヨモギやワラは適度な水分を含み、炎は巨大な柱となって天高く燃え上がる。
そして、なにより煙が凄い。
凄まじい火炎は轟々と燃え上がり、まるで照明弾のごとく黒い闇を赤く照らした。
「なんと?!」
「す、凄い!」
一般召喚獣に攻撃用の特殊能力は無いはずだが、これも裏ルールの例外なのだろうか?
「うぉおおおお!!いっけぇええ!!」
気合い十分のケットシーが炎を一層強くする。
だが、
主な燃料が枯れ葉や干し草であるため、炎はあっという間に消え去り、その場にはただ一筋の煙が細く、そして最後には長く伸びるだけとなった。
「・・・・・で?」
何が起こったのか?それこそが重要なのだが、周囲の状況や自身の身体的な変化などは、何もない。
「ちょっと、ケットシー!何も起き・・・。」
そこまでを口にして私はケットシーの方を見ると・・・
「?!」
ケットシーは気を失っていた。
カラス、というか動物は基本的に火を恐れるが、今回の瞬間的なキャンプファイヤーに対して、ヤタガラスは呆気に取られるばかりで、一歩も動けずにいた。ただ、それが恐怖からでないのは確かだ。
やがて、カトブレパスの重力場の効果が切れ、羽根を広げてこちらに向かってくる。
こちらの劣勢を感じ取り、追い詰める意味合いで、飛びもせずにゆっくりと囲い込む。
そんな状況で、私は反撃用の理科を使用出来ずにいた。ケットシーへの魔法力の供給が予想よりも多かったためである。
まったく、見掛け倒しもいいところ。あの炎は何だったのよ?!
「・・・。」
久しぶりに背中に嫌な脂汗をかく。梅雨だから余計にジトッとして気持ち悪い。
「カァアアァァ。」
「どうするのじゃ!?」
切り札は不発。私もカトブレパスも魔法力切れ。ケットシーは失神。重症の茉理ちゃんのこともある。
「・・・ごめん。手詰まりだわ。」
一歩一歩とヤタガラスの三本の脚が私に近づいて来る。
「・・・。」
この作品に於いて、もはや、お決まりのフレーズ。「私は覚悟を決めて」元素の鍵をヤタガラスに差し出そうとした、その時。
!?
ピンチを切り裂いたのは、キャンプファイヤーの燃えカス、未だ細い煙を立ちのぼらせる熱を帯びた灰の中心部分からだった。
炎を上げている事ばかりが燃焼では無い。
例えば炭は酸素を送り込んで赤々と燃えるのが印象的だが、炎を纏わない安定した状態でも、温度は約800℃ある。
燃え尽きたように見える白い灰でも、かなりの熱量があり周囲の物質を熱することが出来る。
灰の中から現れたのはなんと、炎を纏う真紅の鳥。
フェニックスだった!
その炎はケットシーの特殊能力、ディバインズ・ヒュームをはるかに凌ぐ高さをほこり、また、燃料切れを起こさなかった。
紛れも無い、上位召喚獣である。
甲高い鳴き声を上げて、その炎の翼を広げるだけで周囲の空気を一変させた。
突然のことで、暴走中であるはずのヤタガラスさえも固まり、その存在に圧倒されている。
フェニックスはヤタガラスと同じ鳥類の召喚獣、かつ、性能としては上位と呼称される存在である。
「カ、カァッカァッ!」
今のヤタガラスに知性などはあまり残っていないだろうが、野生の本能などを頼りに威嚇の意味を込めて、フェニックスに声を上げる。
「・・・?」
その声を耳にすると面倒臭そうに首だけを向けてそちらを見る。まさに熱視線。フェニックスがヤタガラスを注視するだけで黒い躯体の温度を上げ、すぐに煙を上げた。
(注:本来の熱視線とは光線兵器ではありません。)
「カ、カァァッ!」
熱に耐えかねたヤタガラスはたまらず方向転換をし、全速力で逃げ出した。フェニックスはそれを追いかけることはしなかったが、視線は向けられたままで、その間、ヤタガラスの羽根を焼いていた。遠赤外線の効果だろうか。おそらく相当なダメージを負っている。
「す、凄い。」
ヤタガラスが逃げたのは材木用の杉が植えられたこの山の中腹あたり、フェニックスからの視線を遮る葉の生い茂るエリアだ。
一時的な避難をしただけなので、すぐにそこから移動をしてしまうだろう。
ヤタガラスについては、また居場所探しをするところからのふりだしだ。
ともあれ・・・・・・助かった。
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