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 はてなを浮かばせた俺に、彼女はぶんぶん、と両手を振る。

「実はわたしのお洋服が今度舞台で着ていただけることになって」

「そうなんですね!」

「はい、今日はこれから最終のチェックをして、二月の下旬ごろに舞台デビューするんです」

「それはそれは。凄いじゃないですか」

「いえいえ、ふふ、はい、嬉しいです。こういうお仕事もしてみたかったから」

 躊躇うように小首を傾げて頷く姿が愛らしい。

「もし差支えなければ、その舞台、教えて頂けませんか? 是非、観に行きたいです」

「えっ」

 その一瞬の、黒真珠がキラリと光った瞬間を俺は見逃していない。

「あの、これ、良かったら」

 そう言って差し出された一枚のチラシ。受け取ってから気づいた。

「スタジオトライトット?」

 それはマリオ君の劇団で、既にチケットを押さえてもらっているものだった。情報解禁したのか。

「この舞台、観に行く予定なんです」

「そうなんですね! わぁ」

「俄然楽しみになって来ました」

「ふふ、ふふふ。それではもっと気合を入れて頑張らなければいけませんね」

「え?」

「マスターに恥ずかしいものを見せる訳にはいきませんから」

 そう言ってぺこり、と頭を下げて商店街へ消えて行った。大きな鞄を下げて。

「星見ロロさん、か」

 チラシと一緒に渡された、ネイビーに箔押しの名刺を胸ポケットに入れて扉を開ける。

 早く二月になればいいのに。

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