忘れられた者
星がきたろう
第1話取り残された者
屋台がずらりと並んでいる。周りには大人から子供までたくさんの話し声や笑い声が聞こえる。
俺は祭り会場にいるようだ。
「お兄ちゃん次あそこ行こ!」
俺の隣にいた、黒髪のショートヘアーで色鮮やかな浴衣を着ている頭にお面を乗せた少女が話しかけてきた。
この少女は誰だろう?知り合いのようであるが思い出せない。
俺たちの姿は周りからは、少女は浴衣、俺は灰色のTシャツと半ズボンというフォークダンスでたまたま出会ったような、気の合わない二人組と思われていることだろう。
その少女は、早く次の屋台に行きたいようでその白い細い腕で、俺の手を掴みグイグイと引っ張る。
懐かしい声だ...そう思い、走っていこうとする少女に対して俺は立ち尽くしていた。
「お兄ちゃんどうしたの?」
少女は不安げな顔をしてこちらを向いてきた。
ああ...思い出した...そうだこいつは、俺の妹だ...それじゃあこれは、夢なんだな...ジリジリジリジリ
そして目が覚めた。
俺はまだ夢の中にいるのではないかと寝ぼけながら重い手を伸ばし、目覚まし時計を止める。
よし、悪は去った、二度寝しよう!という気にはならない。
今日は、月曜日学校に行かなければならない。
俺は、キッチンに行き、お湯を沸かしカップにインスタントコーヒーとお湯を入れ簡単なコーヒーを作る。勿論、コーヒーには何も入れないと少し大人なことを言っておくが、この家には砂糖も牛乳もないため必然的にブラックになっていた。
そして、8枚入のパンから一枚取り出し、パンとコーヒーのごく一般的な朝食ができた。
やっぱり朝はコーヒーがなくては始まらない。と思いながらコーヒーを啜りトーストをほうばる。お湯が少なかったらしく、少し苦いコーヒーになっており、朝はこのくらいが丁度いいと考えることにした。
朝食を食べ終わり、真っ白なシワ一つないシャツを着て、スボンを履き、鏡の前で髪や服装を整えて仏壇の前に行った。
(萌絵(もえ)おはよう、今日も行ってきます。)そう言うと玄関に行き靴を履く。
俺が通っている学校は山奥、そう田舎である。
なぜ俺、草薙光(くさなぎひかる)がそんな田舎の学校を選んだのか。それは、叔父さんの家があるというのもあるが、やはり田舎に逃げたかったからである。
小学校後半、中学校は、親についていったため俺は東京のど真ん中にある学校に行っていた。東京の学校は今までいた学校とは正反対の学校となっており、クラスにも慣れず、気づけば俺は登校拒否となっていた。
その他にも母と妹を立て続けに無くしたのだ。こうなっても仕方のない事だろうと思う。
それで高校は、もともと住んでいたところの学校に行くことにした。しかし、現実はそう甘くなかった。
今まで休んでいたぶん出席日数がまるで足りず、勉強もほとんどできなかったため一番底辺の学校を受けた。
しかしそれでも、なんとか合格することができた。なぜ俺がそんなに高校に行くことになったのかそれは、親にこのままではろくな就職先は無い。と言われたのもあったが、自分自身でもこのままではいけないという気持ちがあったからである。
そんな気持ちを振り返りながら叔父さんが昔使っていたサビが多い自転車に跨ぎ学校に向かう。学校は、家からやや遠く自転車で20分ほどでついた。俺は駐輪場に自転車を止め教室に向かう。
この学校は古いということや、ほぼ全て土足でいいということもあり綺麗とは言えず、むしろほかの学校より、汚かった。床もまさかの木で出来ている。今までの伝統を語るような汚れを吸い取った木の上を俺はコツコツと歩いていく。教室へ着くと初日でもあるため全員静かに座っている。まるで悪いことをして叱られている子供のようだった。
8時になり熟練の先生のような人が「今から体育館に行きます。廊下に番号順に並ぶように。あと、体育館の中では靴を脱ぐように」とゆっくりとまるで日本昔ばなしでも読むかのような速さで言った。
俺はこの時、この先生の授業を受けた生徒はきっと睡魔との戦いがあるだろうと、どうでもいいことを考えていた。
それから、体育館に行きこれからの先輩や先生の話、新入生代表の挨拶(まさかの俺のクラスの女子だった)と色々とあった。
やはりと言うべきだろう、一番話が長かったのは校長の話だった。あの優しげな顔からここまでいじめられていると思えるのは生涯この人だけだろう。
集会が終わり、教室に帰ると俺たちを迎えに来たあの先生とは違う先生が担任らしく。教卓の前には30代の若い男性がたっていた。その担任からよろしくの挨拶がされた後、すぐに初日は解散となった。
帰り道、自転車を漕いでいると、家に帰る前に久しぶりにこの町(ほぼ村であるが…)を回ってから帰りたいと思った。
町を回っていると、色々な記憶が蘇る。
(俺が通っていた小学校、友達とよく遊んだ川や公園、学校の帰りによく寄った駄菓子屋などがあった。)が、俺が通っていた小学校は子供の人数が少なく廃校、川はコンクリートにより昔の形を留めておらず、駄菓子屋は経営していたおばちゃんが病気によって今はもうやっておらず、友達もこの町では高校が二つしかなくほとんどは既に他の県に移っていた。
数年でここまで変わってしまうのだという、悲しみや一人だけ取り残されたような孤独感がそこにはあった。
カラスの鳴き声が聞こえ、辺りもオレンジ色になってきたためそろそろ家に帰ろうと思い、また自転車を漕ぎ出す。
すると山の方が気になった。
(そういえば昔、友達と山で木登りをしたり、秘密基地と言ってダンボールのようなものではなく、木を持ってきて本格的に作って遊んだっけなあ…)最後に山に入ってみたくなった。
俺が昔行っていた山は土砂崩れがよく起き危ないため既に近寄れないように鉄柵で囲われていた。
しかし、そんな事お構いなしに自転車を(こんな自転車盗むやつはいないと思うが)隠し鍵を抜き、柵を乗り越え山奥に入っていく。
人が誰も出入りしないため、草木は足を下ろすとこ全てにあり、もちろん人が通るための道もなかった。
その道無き道を登って行く、自転車に乗って見ていた時には気付かなかったが、頂上に行くにつれて霧が段々と深くなってきた。歩いていく度深くなる霧、流石に危ないと思い山を降りようと思い後ろを振り返ってみるが、既にどこから来たのかも分からなくなっていた。
このまま歩いていても更に迷うばかりだし、何より危険だと思い隣の木下に座って霧が晴れるのを待つことにした。
ようやく頂上方面の霧が晴れてきた。先程より空がオレンジ色からほぼ黒に変わった頃であった。
まずは切りを抜けようと、ずっと座っていた痺れでなかなかまっすぐ立てない足でふらつきながらも一歩ずつ頂上を目指す。
こんなことになるなら山に行こうなんて思うんじゃなかったと後悔をしながら登ること数分後である。
頂上の方から動物がこちらへ移動する音が聞こえる。
(カサカサカサ…)ここら一帯では熊がよく出るらしい、音の正体が熊ではないかと思った。
肉食系の動物に出会ってしまっては危ないと思い、その場で体を縮めて敵が来るのを待つ。
(カサカサカサカサ...)
音がだんだんと近くなってくる。
すると頂上の方からゆっくりと動物…いや、少女が降りてきた。
俺は思わず
「わっ!!」
と言ってしまった。
少女もこちらに気づいたらしく驚いた顔で
「私が見えるの?」
と訳がわからないことを言った。
俺は
「当たり前だろ?」
と当然のごとく答えると少しの沈黙の後少女も何か納得したのか
「そう、そうよね変なこと言ってごめんなさい」と言って山奥に走り去って行ってしまった。
その時、少女のポケットから何やら光る物が落ちた。そして俺が何か落ちたぞと言おうとした時には既に少女はいなかった。
仕方なくその落とし物の近くへ行ってみた。
その落とし物というのは、古いペンダントだった。錆もかなり付いており相当古そうなペンダントだった。
これを少女に今すぐ渡そうかどうかと思っていたが、既に日が落ちてしまっていたのですぐに帰ることにした。
山を降り倒れている自転車を起こす。そして、ポケットから自転車の鍵を取り出し鍵を開け自転車に乗りこぎ出す。
既に数年前から自転車を乗っていない祖父からもらったことや自分が自転車の点検をしていなかったおかげで自転車のライトは点(つ)かなかった。
仕方なく自転車を止め、もう方っぽのポケットからスマホを取り出しスマホを片手に持ちそのライトを頼りに自転車をまたこぎ出す。
このような山奥では街灯が全くないため、スマホがあり本当に助かったと思った。
しかし、それでもスマホのライトだけでは足りず、岩に乗り上げたり、畑の水路にはまったりなど散々な目に会ったが、なんとか家に帰ることができた。
自転車を駐輪場に止め、階段を上がって行く。
綺麗なマンションではなく、かなり前にできたボロマンションなため三階まで階段で上がるしかない。
今日は久しぶりに外に出て学校に行き、さらには山まで登って疲れ果てていた。
この時ほど登るのにきつい階段はないだろう。
しかし、金のない俺はそんなエレベーター付きのマンションを借りることはできなかった。
自分の金のなさを悔みながら一歩ずつまるで足が悪いかのようにゆっくりと上がって行った。
「ガチャ!」金属のドアが響く音を立てる。
ドアを開け、かばんを投げ置き「はぁ~」とまずため息をつき、玄関に仰向けになる。
天井の証明が眩しい。
俺は右腕を目の前に置き休む。
そしてこのまま寝てしまおうかと思ったが、さすがに腹も減ったし、汗が服にべったりとついており、気持ち悪いということもあり、せめて食事と風呂には入ろうと思った。
しかし、考えと裏側に(動け!)と思っても動かないのが体である。
結局俺が動き始めたのは、家に帰ってきてから既に2時間経ち時刻は9時を簡単に過ぎていた。
重い体をやっとの思いで持ち上げとりあえず風呂場まで行く。
先程まであんなに暑かったにもかかわらず、今は汗が冷たく風邪を引きそうだ。
汗でぬれた服を脱ぎ洗濯機の中に放り込みすぐに風呂に入る。お湯を沸かそうと思ったが、既に服を脱いでしまったことや、お湯がたまる時間を待っているのもめんどうだと思い却下した。
しかたなくシャワーだけで終わりにする。
頭や体を簡単に洗い、すぐに風呂を出た。しかし、まずいことになった。
早く風呂に入りたいと思い服どころかタオルすら準備していなかったのである。
この部屋には誰も居なかったのは不幸中の幸いだが、床がぬれるのは気が引けた。
だが、このままからだが乾くのを自然のちからだけに任せるわけにもいかず、リビングにあるダンボールからタオルを取りに行くことにした。
少しでも床がぬれないように足先で立ち、小走りで行く。
リビングに着きタオルが入っているダンボールを探す。
タオルが入ったダンボールは山の一番下にあり、取り出したときには部屋はめちゃくちゃ、おまけに水で大変なことになっていた。
この悲惨な状況をオレはみなかったことにしてとりあえず体を拭き、始めのほうで見たけたオレンジ色のTシャツと黒の半ズボンを着る。そして、タオルで水でぬれた床を拭く。
ダンボールから出た物たちは次の休みの日にでも片付けることにして、食事を取ることした。
俺は昨日引っ越してきて、しかも一人暮らしである。
当然冷蔵庫というものもなく、ましては今日買い物にも行ってないのでもちろん家には食い物というものはないあのダンボールの中にも生活用品しかなくレトルト商品は、今日の朝使ったインスタントコーヒーしかなく今はもうない。
しまった、と思いながらも食べずには到底眠れないので、しかたなく近くのコンビニに行くことにした。
またあの階段を上り下りするのかと少々気も引けるが行くことにした。
コンビ二は近いとは行っても自転車で10分かかった。
俺がコンビニのドアを開けたそのとき、店からクーラーの心地のよい風がドアから吹き出てきた。
今日ほどクーラーに感謝したことはないだろう。俺は少しの間夕飯を買いに来たのではなく、このクーラーの風を浴びに来た気になっていた。
数分後、俺は本来の目的を思い出し、おにぎりやパスタが売ってあるエリアに行く。しかし、夜中という点や、ここが田舎だということもあり品数はかなり限定されていた。
俺は仕方なくたらこのおにぎり2個とインスタント味噌汁1つを手に持ちレジへ行く。
この時間になるとやはり誰も来なく暇なのか店員は1人しかおらず、そしてその店員もあくびをして、とても暇そうである。
俺は先ほどのものだしポケットから財布を出す。
財布を出している間に店員はそれらをピッピッと音を鳴らせ会計していくそして最後に453円ですというなんともやる気のない声を聞き、俺は財布から500円玉と1円玉3枚を出す。
そして店員から50円玉と商品をもらいありがとうございましたという店員の声を聞き店を出て行った。
家に帰り早速お湯を沸かしインスタント味噌汁に注ぎ込みまず一口飲む。
いつの時期でも味噌汁というものは実に美味しい不思議なものだ。
そして、すかさずおにぎりをほうばる。
晩御飯は数分で食べ終わり、その場で横になり少女が持っていたペンダントを目の前に持ち上げる。ペンダントは開けられるようで、溝がある。中身が気になったが、見知らぬ人のプライバシーを侵害するような最低な奴ではない。俺はそっとバックの中にペンダントを戻した。
そして、布団を敷いて寝ようと思ったが流石に体の限界が来ており布団も敷かずその場で寝てしまった。
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