009 僕達人間と同じ②




 アジト内に戻った三人。明かり一つない空間で、静かに外の様子をうかがっていた。


「何人来てる?」

「さあな。こんな真夜中じゃ相手が人かも分からねえよ」


 ライムの言う通り外は月明かりすら届いていない。うごめく影は禍々しく、それでも次第に大きくなっていることだけは分かる。影の塊は確実にこの隠れ家へと迫っている。


「それよりも、これだ」


 床に敷いていたカーペットを剥がす。そこから鉄の輪でできた取っ手が現れた。数回重心を後ろに掛けると、高い音を立てて床の扉が大口を開けた。


「お前らは先に行け。ここを通れば街近くの林に出られる。少し狭いが通れない程じゃない」

「ライムはどうするつもりなんだ?」

「誰かがあいつらを足止めしないとこの抜け道も見つかるだろ。後から行くさ」

「だったら僕も残るよ」

「あほか。お前はセラルフィを守れ。……もう時間も無いんだろ? じゃあ今からでもシルヴァリーをやらなきゃならん。それができるのはマヨイビトとお前だけだ」


 セラルフィも分かっていた。自分の心臓が爆発するまでもう時間が無い事を。前までは死にたくないという思いばかりが先行して動いていた。しかし今では自分の生死は問題ではない。

 トトと話していて、なんとなくだが気付いた事がある。心臓を奪われ四日が経ち、その状態で魔術を行使した。そのせいで記憶が錯乱している。自分ではない自分が現れ始めているのだ。とどのつまり、人格の喪失。

 だがライムは自分の身を案じているような言葉を吐く。喜んでいいことなのかは分からない。とはいえ喜んでいる暇も、猶予も無い事は事実だ。


「ライム」

「勘違いするな。マヨイビトを許したわけじゃない。ただお前がこの戦いに必要なだけだ」


 バカにするように口角を上げて来る。彼も彼なりに考えがあるのだろう。


「トト、これやる」


 ライムは小汚い巾着袋を手にぶら下げ、ずいっとトトに差し出した。


「お守りだ。これがありゃ何とかなるだろ……。うし、さっさと行け。この家も、家に仕掛けた道具も、知り尽くしてるのは俺だけだ」


 セラルフィが黙ってトトの手を握る。いつまでもここで喋っていられるほど余裕は無い。トトはセラルフィの手を強く握り返し、地下へと続く階段に足を踏み入れた。

 降りようとしたトトは、一度立ち止まる。


「ライム」

「なんだ」

「あの時は悪かった」

「水臭いこと言わんでいい」


 お互い顔を合わせることは無かったが、二人とも肩越しに手だけは振っていたのを、セラルフィは見逃さなかった。




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