第2話 二つの選択肢
先ほどまで光に集中砲火を食らっていた視界はその光を柔らかく受け入れるように、だんだんと鮮明になっていった。
気づけば2人は先ほどまで涙が出るほどの衝撃を受けて痛みを訴えるおでこのことなど忘れ、まるで時が静止しているかのように、静かに見つめあっていた。
ふと吹く風に耳をくすぐられ我に帰る。
なぜ夢から覚めたと思ったら目の前に銀髪の幼女がいるのか。
訳がわからない。
しかし、幼女とは思えぬ美貌を持つ彼女に気づけば見とれその理由すらも考える隙などなかった。
「いつまで見つめているつもりなのですか?樹様!!」
「あ、はいすいません」
見惚れていたせいなのか。
その言葉を無意識に、無力に呟いていた。
無意識な発言に気づきそれを訂正する。
そんな間も無く彼女は続けた。
「ようこそ死後の世界へ!私がこの世界で貴方だけの案内人!アマリアなのです!
この世界で貴方が不自由なことの無いように誠心誠意尽くすのです!」
幼女は見た目と同じ幼く愛くるしい声で淡々と自己紹介を済ませていた。
しかし、そうですかと彼女の言葉を全て納得するには少しばかり早く話が進みすぎた。
「ちょ、ちょっと待て。」
「はい!何なりと聞いてください!!」
彼女の言葉に冷静さを取り戻し、一番の疑問を聞いてみることにした。
「さっき死後の世界って言ってたよな?
つまり、俺は死んだのか?」
それは同じ立場なら誰もがつっかえる疑問であった。
確かにあの日俺は強盗を制圧し、見事少女を救い、そして自らの胸に刺さる包丁を目の当たりにした。
しかしまだ死んだなど決して想像もしていなかった。
が、彼女が放つその言葉で疑問が解け確信へと変わった。
「そのとうり!貴方は死んだのです!」
心なしか嬉しそうにそう語る彼女。
「夢じゃないんだな?本当に俺は現実で死んだんだな?」
確信はあったがその事実に素直に受け入れられない、受け入れたくもない。
まだあの世界には死ぬ直前にできた未練が残っている。
命をかけて救ったあの少女。
まさか、ラブコメ展開どころか、声すらも聞いてないというのに、まさか死ぬなんて。
「そう言ってるじゃないですか!そんなに私が信用できませんかー?」
不安を逆なでするような言い方に相手は幼女だろうと少しイラっとした。
「信用するとかしないとかそんなレベルの話じゃないだろ!いきなり貴方は死にましたって言われて、あ、そうなんですねなんて言える訳ないだろ!!」
苛立ちが抑えきれず言葉に現れ少しばかり強く言ってしまった。
「それになんなんだよ案内人って。死後の世界は自由気ままに極楽満喫ライフなんじゃないのか?」
そんな誰もが想像する死後の天国といわれる世界の決まりごと。
そんな概念は彼女の言葉によって無残に叩き潰れる。
「そんなハチミツみたいに甘い話ある訳ないじゃないですか?ここでこうしている私だって一応元は現実を生きる人間だったんですよ?」
意外な彼女の回答にますます訳が変わらなくなり頭の中で混乱が起こる。
「死後の世界では現実世界であらゆる未練を残された方のために2つの選択肢が用意されています。1つ目はそのままその身を捨て魂も残さず本当の死を迎える。
2つ目はその未練を果たすため必死にこの世界で働きポイントを稼いで現実世界へ一か月の旅をする。その2つを自由に選べます。」
「この世界で働いたポイントを使ってまた現実世界へ行けるということか。一か月って短すぎないか?」
素朴な疑問を感じたままに質問する。
「そう!それが甘くないポイントなんですよ!」
自信満々に答える彼女だが、働けば現実世界に行けるというだけ最高に甘々な気がしたがそれは心の片隅にでも閉まっておこう。
「その2つなら全体に2番目!働くに決まってるだろ!で、一体何ポイントで現実に戻れるんだ?」
2つ目の選択肢を選ぶ上で欠かせない知識の1つだった。
「10000000ポイントです!」
ん、よく聞き取れなかった。というか、あまり聞きたくない桁だったような気がして改めて聞き直した。
「ごめん、もう一回言ってくれないか?」
「だーかーらー!1000万ポイントですって!」
い、1000万?
この世界のポイントの価値はよくわからないが桁の数だけを念頭に入れて考えると寒気がする。
「1000万って...それってどれくらい働けば1000万稼げる?」
「期間の話ですか?それなら、んー。。」
それも大切な知識だった。
実際いつかは1000万ポイントを稼いだとして、もし帰れたとしても、時間が経ちすぎた現実なんの意味もない。
「そうですねー、早くて2年ってところですかね!」
「に、2年?ちょっと待てよ
2年経った現実なんて俺の未練は果たすことができない、意味のない旅になる!」
実際のところそうだ。
俺の未練はただ一つ。命を救った美少女とせめても名前を聞きたい。
なのに2年後なんて忘れられててもおかしくはない年月だった。
「あー!大事なことを一つ言い忘れてました!
その旅のスタートは死んだその瞬間からです!」
そう言われしばらく頭を整理して確認をとった。
「つまりはタイムロスなしで始められるってことでいいのか?」
「つまりはそういうことなのです!」
なるほど、よく出来ているとつくづく思う。
現実世界へ戻れる期間は一か月というところが少しシビアなところ以外は全く甘々な世界だと改めて思う。
タイムロス無しなんて最高の特典だ。
今まで抱いていた不安、疑問、その他の感情を決心というひとまとまりにした。
この世界で生きていく決してを。
「俺は樹 これからよろしくなアマリア!」
すっかり忘れていた自己紹介を少し遅れたが返した。
「こちらこそ宜しくなのです!樹様!」
少女は気持ちを改めたかのように清々しく、そして幼く愛くるしい笑顔でそう答えた。
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