異世界ロリとの青春は思ったよりも悪くはない

黒峰青派

第1話 ロリとの遭遇

「あー、疲れた。」


気づけば毎日同じ台詞を。同じ所で。同じ時に。

まるでこの世が終わるかのような重苦しい口調で言っている。

よくもまあ飽きずに同じことを毎日繰り返せるなと自分でも呆れるくらいだ。


でも、仕方がない。

本当の本気で思えてしまうくらい救いようもない生活をしているのだ。


と言っても別にそこら辺にいる高校生となんら変わらない生活かもしれない。

しかし俺にはそれ自体が。

その当たり前のような生活が、心の底から嫌気がさしていた。

その理由の1つにおそらく自分の中に抱いていた目標というには恥というほど謎な決心をしていた。


「いつか。いつか絶対にこの生活から抜け出して異世界で美少女達にちやほやされてやる!」


そんな、いかにも三次元への希望も目標も捨て二次元に我が身を捨てるような目標は無残に引き裂かれる事になるなんて思ってもいなかった。



「あー。疲れた。」


いつもの決まり文句を息をするのと同じくらい当たり前のように、そして、静かに吐き出したいつも通りの日曜日。

部活終わりの俺はこの無残につまらない世界を少しでも華やかにしようと考えコンビニでスイーツを買って家でスイーツパーティーを開こうと決めていた。


いわゆる

「スイーツ男子」

なのだ。

パーティーとはいえもちろんメンバーは決まっている。

俺だけ。誰にも邪魔をされない唯一の至福のひととき。

そんな時間に浸る自分を想像しつつ、いつものコンビニに足を踏み入れたその時。

俺は気づいた。やけに店内が沈黙の空気に満たされている。

沈黙だけではない。その沈黙の中で一際心に突き刺さるほどの殺気をまとう刃の姿が沈黙の空気を肌で感じるのと同じくらいで視覚に突き刺さった。


その刃の元をたどると身長180センチ前後の長身、黒のジャージに黒のジャケット、マスクに黒い帽子。

マスク以外を漆黒に染めたまさにニュースでよく見る犯人のテンプレずくめ。


普段から頭が回る方ではないが流石にそのテンプレにはすぐさま気づいた。

「こ、コンビニ強盗」


今時コンビニ強盗なんて珍しい。

そんな事を考える心の余裕があったのが不思議なくらいだ。


まだコンビニに入って一歩だ。

まだ引き返せる。

まだ走って逃げれば自分は助かる。


きっといつもならそうしていた。

しかし、どうしても引けない理由が逃げる理由を模索し行動するまでの時間を作らせないとばかりに食い込んだ。


犯人の要求は間違いなくレジの金だろう。

しかしその要求は決してスムーズに受け入れることは難しかった。

犯人の発している言葉は外国語検定を持つ俺にすら理解しがたい言語だった。

そのせいで犯人と店員との間にすれ違いが起こる原因となっていた。

明らかに犯人の目に余裕はなく、手元はいつでもやるとばかりに殺気と不安が入り混じった震えにかられていた。


その小刻みに震える刃を向ける先にその理由は犯人よりも弱々しく震えていた。

漆のごとく艶めいた長い髪、短いスカート、色白で長い足。胸は…許容範囲としておこう。

まさしく美少女のテンプレずくめであった。


おそらくこのままでは少女の犠牲は否定できない。

そんな事を見るのも考えるのも脳は拒絶していた。

だからこそここで引いたらきっと自分を恨み、後悔する。



そうだ。俺の人生今まで何の意味も見出せず、生み出せず。

そんな人生をこれから歩むくらいならこれくらいの賭け、したっていいじゃないか。


「俺はこの子を救って絶対にラブコメ展開満喫してやる!」


そんな身勝手な動機を胸に俺は一度は止めた右足に力を入れた。

大丈夫、この間面白半分で調べた護身術がある。

たまたま先日ナイフを持った相手に素手で身を守る護身術なるものを身につけておいた。

こんな展開またとないチャンスだ。

それを信じる以外に少女を救う手立てはない。


犯人はレジにいる店員に集中しているのかこちらには目もくれずに背を向けていた。


「今しかない。」


その決心と同時に俺は足にこれまでにないほどの力を入れて走り出した。

間に合え。間に合うはず。間に合わせる。

一度決心を固めた心を崩れ落ちないように補強した。

思ったよりも早く後ろにつけた。

俺はとっさに犯人の首元に手を回し、全体重を後方にかけた。

突然のことで力が入らなかったのか、意図も簡単に犯人は膝から後ろに崩れ落ちた。

絞め技で身動きが取れていない犯人に、突然のことで放心していた他の客たちが駆け寄り拘束した。


「やった。救えた。」

思ったよりも簡単に、そして早く犯人を制圧できた事に驚きつつも、不安と恐怖から解放されて肩から力が抜けた。

と同時に嫌な予感がした。

犯人は確か武器を、包丁を持っていたはず。

それの行方を探す間も無く悟った。

なぜか胸のあたりが痛い。

痛い。痛い。痛い。痛い。

さっきまで犯人が持っていたはずの包丁が刺さっている。

何でこうなるのか。

痛すぎる。今まで体験したことのない痛みが胸と心に突き刺さる。

俺は正しいことをしたはず。下心がなかったとは言わないが。

意識が痛みが増すのと比例するかのように遠のいていくのがわかる。

まだ少女の名前も、声すらも聞いていない。

俺のラブコメ展開はどこへ行ったのか。

そんな事を考えながら涙で熱くなった目を静かに閉じた。


あれからどれだけの時が過ぎたのかは夢の中ではわからない。

しかしそんなのは気にする気もなくなるくらい素晴らしい夢。

夢だった異世界で美少女にちやほやされている。

美少女とは言っても高校生くらいの同い年くらいのこと。

ロリではない。俺はロリには興味がない。

とか言うとロリ好きに怒られてしまうが、好みは人それぞれなのだから、それに俺の夢の中、死後くらい好きな設定でいたいものだ。


そんな事を思ってからまた時がしばらく流れたであろうある時。

いきなり頰のあたりに電気のような衝撃を受けて夢から目覚めた。


「何だこれ。眩しい。」


とてつもない量の光の矢が少し開いただけの目に容赦なく突き刺さる。

状況がよくわからない。

そりゃそうだ。さっきまで夢の中で夢を叶えていた真っ最中なのだから。


それになんなんだ。

この頭の後ろにある柔らかな感触は。

うん。悪くない。

まるで天使の膝枕のようだ。


そんな事を思いつつとりあえずはと勢いよく起き上がろうと頭を浮かせたその時おでこあたりに凄まじい衝撃が走った。


「ぐわぁぁ!!いっでぇぇ!」


思わず叫んでしまうほどだ。

何が起きたのか把握できないままとっさに後ろの気配に気づいて振り返る。


「 …え」


よくわからない。

頭を痛そうにさすりながら涙を浮かべた半開きの目を向ける

「天使?いや、ロリ天使?」


白く、いや銀色といった方が正しいと言えるほど輝く髪。膝を折っているから鮮明に背丈を把握することはできないが明らかに幼く、あどけなさを醸し出す顔立ちが幼女以外の何者でもなかった。

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