供養

西木 草成

悪ガキ

 何かと古い場所というのは噂が立つものでして、そこでは誰かが殺されたとか、自殺したとか、そこには死体が埋まっている云々と挙げだしたらきりがないでしょう。ですが『火のないところに煙は立たない』、そう言った情報を何かと信じてしまいがちに、そしてそれが残虐性が高いほど信じてしまうものです。


 さて、前置きはここまでにしておきましょう。


 私の通っていたところの小学校はそれはそれは古くて、戦後だか戦前あたりに建てられたという話でしてね。当時小学生で悪ガキだった自分にはあまり覚えていない話です。


 まぁ、そんな悪ガキだった頃の話になります。


「なぁ、今日の夜中。学校の旧館に忍び込んでみねぇっ!?」


 と、悪ガキが一人申しまして。


 もうそうなると止まらない時代でしたから。4、5人集まって計画を放課後になって話していたわけですよ。


 まぁ、法律も知らないガキでしたし、もう時効ということでご容赦を。


 さて、その悪ガキが申すには、通っている小学校の旧館には『トイレの花子さん』が出るという話でして。まぁ、根も葉もない噂でしたが、確かに小学校の敷地内には木造で草むらに隠れるように、ひっそりと建っている旧館と呼ばれる校舎がありました。普段はあまり使わず、当時は物置になっており、高学年の図書委員が中から本を運び出したりするのにしか使っているのを見たことがありませんでした。


「でもどうするの? 普段鍵かかってるけど、どうやって入るの?」


 そう、問題はそこでした。


 普段、旧館には鎖で入口を南京錠で施錠されているため中に入ることはできません。だが、そこで悪ガキがもう一匹言うわけです。


「あの鍵だったらクリップ二本で開くよ?」


 とまぁ、鍵の問題が解決して結局その集まっている4人ほどのメンバーで深夜の旧館に侵入することになったわけです。


 そして時間はあっという間に過ぎて夜中の1:00を回った頃でしょうか、家から懐中電灯を持ち出して深夜の学校に集まったわけですよ。集合場所は学校の正門前で、まぁ普段学校でしか会うことのない友人たちがこんな時間に集まって悪さをしようというわけですから全員、内心は恐怖よりも楽しいという感情が上回っていたことでしょう。


 そして、校門のゲートを乗り越えて校舎の中へと入っていきます。


 それぞれ懐中電灯の光を頼りに学校の本当に端の方にある草むらの中を目指して歩いています。それだけで冒険みたいな感じで楽しかったわけですが、薄暗い中、懐中電灯に照らされている旧館の、そのあまりの不気味さにそこで初めて恐怖というの感じました。


 そして、南京錠をクリップ二本で開けることができると豪語していた悪ガキは10分ほどかかってたでしょうか? それでもなんとか南京錠を開けることに成功しまして、ジャラリと地面に落ちた鎖の音にびっくりしたわけですよ。


「なぁ、なんでトイレの花子さんなんて出るんだ?」


「ここが立つ前に起きた戦争でここに逃げ込んだ女の子が殺されたんだって。それで夜中になると化けて出るとかって話を聞いたよ」


 とまぁ、そんな話を真っ暗な廊下をギシギシと歩きながら話しているわけでして。


 廊下にはたくさん教室が並んでいて、その中にはたくさんの機材やら、段ボールやらが詰まっているわけですがそう言ったのは全部無視して奥の方にある、その噂のトイレとやらに向かっていたわけですよ。


 やっぱり建物の奥にあるということで、他の場所に比べると一際薄暗く、不気味に感じましたね。


 まぁ、懐中電灯をあらゆる場所を照らしながら歩いていたわけですよ。鏡に映った自分の姿に驚いたりしながらね。


「あの一番奥のトイレの個室だぜ」


 と、一人がこぼしまして。


 入ったのは、当然花子さんというくらいですから女子トイレ。その奥の4番目のトイレに出ると言う話でして。全員でそのトイレの前に立ったわけですよ。


 そこで違和感を見つけるんです。


「なぁ、なんでこのトイレだけガムテープだらけなんだ?」


 そう、そのトイレの個室は他のトイレと違い、扉の隙間をまるで埋めるようにしてガムテープがびっしりと貼ってあったんですよ。


 まるで、何かを閉じ込めるような感じで。


 他にもありました。


 なぜか、そのトイレだけ補修も行った様子もなく古いままだったのです。まるで戦後の時代に取り残されたかのような感じで。


「これじゃ中見れないじゃん」


 とまぁ、自分が言いまして。すると、一人がどこからか金属製のバケツを持ってきまして。


「隣の個室に入って覗き込めばいいじゃん」


 ということで、隣の個室を開けて、そこに先ほど持ってきたバケツを足場にしておいたわけですよ。


 さて、誰が覗き込むか。


 ここまで異様な光景を見せつけられて誰一人として覗き込もうとはしませんでした。仕方がなく、じゃんけんで決めることに。


 そして決まったのは、最初にここに侵入をしようと言った悪ガキが決まったんですよ。


「絶対置いてくなよっ!」


 と後ろをものすごく気にしながら言ってまして、そしてバケツを足場に隣を覗き込んだわけです。


 しかし


 覗き込んだ瞬間、彼は何も喋らなくなったんです。


 そして次の瞬間。


 突然足場にしていたバケツを大きな音を立ててひっくり返して、彼は一目散と逃げ帰ってしまいました。


 自分たちもあまりのことに呆然とその場に立ち尽くしていたんですが、急に怖くなって彼同様、一目散に旧館を出て行きました。


 さて、次の日。当然、何もかもをほっといて逃げてしまったため誰かが旧館に侵入をしたことがバレてしまいましたが、自分たちが侵入したということはバレませんでした。


 ですが、昨日覗き込んでそのまま帰ってしまった彼はその日学校を来ることなく、さらに次の日、学校に戻って来た時。


 彼のつり上がって変わり果てた顔は、まるでキツネを彷彿させました。


 さて、この話の後日談と言いますか....


 結局、その旧館は取り壊されて自分が転校した後から8年くらいですかね。そこにはトイレが建っていました。入ることはできませんでしたが。


 おそらく、あの時彼が見た、花子さんがいるのでしょうかね?

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