第1話
目を覚ませば朝が来る。
当たり前だ。そう言う「設定」で、そう言う「常識」なのだから。
「おはようございます、マスター。お名前の設定はいかがいたしましょうか」
目を薄っすらと開けると、ベンガル猫が小首をかしげながらコマンドウインドウを広げてきた。
自分の「決めた」容姿がのったプロフィールが見える。だが、名前のところが『Unknown』だ。
そこまでは確認できたが、如何せん眠い。
猫がいるなら暖を取ろう。また目が覚めてから考えればいい。
「マスターのお好きにどうぞ。目が覚めてからでも、眠ったままでも『選択』は貴方しか出来ません。世界はそう出来ています」
お言葉に甘えて好きにさせてもらおう。
猫というものからは眠気を誘う何かが出ている気がする。
直ぐに眠ってしまったが『夢』などは見なかった。
「おはよう、直也…」
目を覚まし猫を撫でる。自分の名前よりまずそばにいる猫に名前がついた。
名前:直也
種類:ベンガル猫
役割:『Unknown』のサポーター
コマンドウインドウが広がり、名前のところに「NEW」がつく。
それと同時に「直也」と名の付いた猫の目が一瞬変わり、そして元に戻る。
「おはようございます、マスター。貴方のサポーター『直也』と申します。マスターのお名前をお聞かせください」
聞かせろ、と言いつつ出てきたのはキーボードだった。如何せん名乗るのは恥ずかしかったのでそちらを『選択』したのだ。
名前:浄和遊悟
厨二病臭さ満載だが、文句は出ないはずだ。なんたって此処は自分だけの世界なんだから。
「認証いたしました。おはようございます、マスター遊悟。ラグ・クラウドにようこそ。」
お決まりのセリフから直也の口から放たれた。
そこから先を『選択』しなければ、自分も、このサポーター直也も進めないからだ。
この世界は何処かの世界の、何処かの『サーバー』にある、俺だけの世界。
そんなサーバーを打ち立ててもなんの利益もならない。情報を幾ら取れたとしても、参考にはならない。なのに利用者が増え続け、ゲームではない『現実』にとって変わる世界をある企業が打ち立てた。まだ日本だけでのプレだというが、のめり込みその世界に『旅立つ』人間が増えた。
俺もその一人である。
説明書にもあったように『戻れない』らしいが、興味はなかった。
自分という自我は、今この考えている自分だけのものであり、他人が認識する必要はないからだ。
それを『選択』し、現実を放棄したのは自分であり、責任は選択したものが負う。人に迷惑は掛けていない。そんな優しい世界でもいいじゃないか。
「マスター、これから何をしますか?何を『選択』しますか?」
執拗に『選択』を迫る直也を尻目に、今の世界の情報を引っ張り出す。
『今』から始まった世界でも、自分が生きやすい設定、歴史はある。それを確認する必要がある。
ただ自堕落に生活するのでは、簡易な『元現実』と変わらない。
自分の生きたい世界になったんだ、楽しめるように『選択』する権利があるはずだ。
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