第42話 説明の黄色

 保健のお姉さんはレツさんと僕の姿を一瞥しただけで、すべてを悟ったらしい。


暮内くれうちくんをそこにベッドに。……ごめんね、みんな、たった今から保健室は貸しきりになった。人生相談はまた明日。世間話はまた来週。具合の悪い子は病院へ。遠慮しないで、タクシー使っていいから。でも、領収書は忘れないでね」


 そう言って、レツさんと僕以外の生徒を保健室から離れてもらう。その手でレツさんの脈拍や体温をはかり、触診をしながら。


「ど、ど、どうなんすか、先生!!」


「情報が少ない。家路いえじくん、説明を。かいつまんで」


 と、言われても、僕にも何が起こったのか、レツさんが百田に何をされたのか、わかっていないのだ。何をどう説明しろと。


「答えは求めていない。原因じゃなくてもいい。些細な経緯でも構わない。君のバイアスにまみれててもいい。とにかく情報が必要だ」


 テンパった僕の頭に、お姉さんは優しく諭すように言った。


 僕は一生懸命さっきのことを身振り手振り、あらゆるものを動員して彼女に訴える。


 お姉さんは僕に相づちを打ちながら、つぎつぎとレツさんに医療器具をつけていく。本物の医者のようだ。しかも、相当熟練した。


「……なるほど、百田という子が暮内くれうちくんにキスをした。それで彼女がいきなり倒れたと」


「は、はい、すんません。たぶん、そうです。よく見えてはいなかったけど」


「ありがと。今から暮内くれうちくんの全身を本格的に検査、及び治療に入る。正直、見当もつかないから、徹底的に調べ尽くす」


「お、お願いします!!」


「いいお返事。……で、君はここで見ているつもりかな? 私は彼女にいろいろやるんだけど」


「あ、裸ですね。は、裸にするんすか!!」


「それで済むといいけどね。それとも君は彼女の大腸や肝臓、脊髄を見てみるかい? 当分は焼き肉行けなくなると思うけど」


「おおぅ」


 先輩の内臓。全然、興味が湧かない。湧くはずがない。


「はい、カーテンの向こうで待ってなさい。私も同時進行で校長やAさん達に連絡しなきゃいけないから」


「……先生」


「うん、何?」


「マジでお願いします。レツさんを助けてください」


「ハッハー。安心したまえ。私は天才だ。お金に見合った仕事はしてきたし、これからもするつもりだよ」

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