第24話 絶意の黄色

 白髪の男は僕の頭を抑えると、一気に自分の頭部を打ち付ける。ごむりと気持ちの悪い音がする。


「いってぇええ! なんて石頭してんだんだよ!」


「ぎゃはは。望月クン、サイコー! 自爆って爆受け!」


「っせえな! だったら、お前らがやってみろよ!」


「おっと、即興頭突き大会!? ぎゃは、サイコー! やっちゃっていい、マジで?」


「つーか、俺の分は残しとけよ? やったらツブすから」


「オッケー、望月クン」


 悪級劣ワルキューレは、まるで月で餅つくウサギのように円になって、僕にヘッドバッドを見舞ってくる。ごむ、ぎゅむ、どむ、ずむ、べむ、きゃむ。その度に、連中は爆笑し、よろめいた僕には膝蹴りが待っていた。


「つかさ、お前ら、こいつの罰ゲーム、考えつかねえの?」


「そりゃ、無理っしょ! 俺ら、望月クンのおまけだもん。なんつーの、リベンジはやっぱ望月クンが決めちゃって?」


 連中の手が休んだ隙に、僕は白髪の男を見上げた。僕はこいつを知っている。悪級劣ワルキューレのリーダーで、一族が何とかグループを経営していて、悪級劣ワルキューレで一番最低な男と呼ばれていることを。なぜ最強でも最悪でもなくて、なぜ最低なのかまでは聞いていない。わかったら本庄にでも教えてやろう。いや、もうわかってるか。


「ヅッキーさ、面倒じゃん? 裸に剥いちぇえば? で、生徒玄関に晒すじゃん? ネットで載せんじゃん? こいつの一生、終わらせよ?」


 望月の後ろ、屋上の手すりにもたれかかっている女が酷薄そうにキャンディーポップを舐めていた。


「俺に命令すんじゃねえよ、ルナ。つーか、お前らも何、手ぇ、抜いてんじゃねぞ。頭突き大会は終わりだ。とりあえず、ボコっとけよ」


「あ、ごめん、望月クン。……おら、お前のせいで怒られちゃったじゃねえか」


「きったねえ、こいつの涙が手に付いちまった」


「何、泣いてんの、彼?」


「っつ! こいつの歯で手、切っちゃったよ」


「何やってんだよ、だせえな」


「まだイケるっしょ? まだイケるっしょ?」


「どうする、望月クン? どうするよ、望月クン?」


「っべえよ。っべえ、超興奮してきた」


「たまんねえ、こんなの久しぶりだわ」


「マジ、サイコー」


「で、この先」


「この後」


「「「「どうするよ、望月クン!?」」」」


「……っせえな! だから今、考え中だっての!」


「きゃは。ルナ、サイコーに善いこと思いついちゃったじゃん?」


「ああ? 言ってみろよ」


「ヅッキー、こいつ、殺してみようよ? 一回、ルナ、人が死ぬところ、観てみたい、つうか」


「はぁああ、ルナ、てめえ、フザケタこと言ってんじゃ」


「やっちゃえば? ヅッキーん家で揉み消してくれんじゃん? 自殺に見せかけるなんて超ラクショーじゃん?」


「……ち」


「何々、ビビってんの? 超ウケんじゃん。だってヅッキーを普通科で恥かかせたんでしょ? しかも一年の教室で。それ、当然じゃん、マジで? 死んで詫びるとか、当たり前過ぎるっしょ」


「……っせえよ! そんなこと、わかってんだよ。おい、お前ら、その辺にしとけ。つーか、こいつ、突き落とすからよ。お前ら、こいつが自分で飛び降りたって言えよ。細かいことは、俺の親に任せっから」


「マジで? 殺っちゃう? やっぱ、望月クン、最強! 善い感じじゃない!」


「じゃあ、殺すか。つうか、落とすとこ、しっかりスマホで撮っとけよ。後であの女に送り付けて、ビビらせっから。俺に関わったこと、後悔させっから」


「ひょえ、望月クン、最低!! すげえ!! しびれるぅ!!」


「ほら、さっさと殺っちまうぞ。ゴタゴタがうるせえからな」

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