みら☆メガ! ~アタシと未来メガネの日常と非日常~
荒霧能混
1章 出会いは蔵の中
1. 出会いと再会
それは、窓際の机に置いてあった。
お日さまの光を浴びてキラキラと輝いてみえた。
その光に吸い寄せられるように、アタシは近づいていく。
「これって、メガネ?」
そう、それはメガネだった。丸いレンズに黒ぶちのメガネ。なんだか古めかしい、教科書に載ってる昔の人がつけてるような感じ。
うちのパパの、四角いレンズに銀色フレームのおしゃれメガネとは全然違う。
だけど、アタシにはこれが、このメガネが、なんだかとてもキレイに見えたんだ。
窓からの光が机にメガネの影を作ってる。その影は長く伸びて、フレームの形がなんだかヘビがダンスしてるみたいになってた。
レンズのところもうっすらと影ができてる。でもこのレンズの影、なんかヘンだ。アタシは顔を近づけて、目を大きく開いて、よ~く見た。
離れてると分からなかったけれど、そこには虹色の細かい模様が見えた、しかも、なんと、その模様はモヤモヤと動いているような……
「不思議なメガネ……」
あたしは思わずそうつぶやいてた。このメガネは、アタシと会うためにここにあったのかも。なぜか分からないけど、急にそう思えてきたんだ。ううん、絶対そうだ。
アタシはメガネに手を伸ばして、触れた。黒ぶちのフレームの上をアタシの指が滑る。すごくなめらかだった。レンズの横のところをつまんで持ち上げる。耳にかけるツルのところを開いて、両手で持ってみた。すぐに顔にかけずに、そのまま上下左右いろんなところに向けてみた。レンズを通して見える場所も、他とそんなに変わらないように見える。
「あれ、これってもしかして」
アタシはそうつぶやいて、いよいよメガネをかけた。パパのメガネをイタズラでかけてみた時、景色がぼやけて、クラクラして目が回ったのに、このメガネは大丈夫だった。いつもといっしょだ。やっぱりそうだ、このメガネ、度が入ってない!
何を隠そうこのアタシ、目の良さには自信がある。視力検査ではいつも2.0だけど、あのCの字の検査表に2.0までしかないだけで、ほんとはもっと良いんじゃないかって言われてる。だからアタシは今までメガネには縁がなかったんだ。
でも、雑誌とかでモデルさんがかっこいいメガネをかけてるのを見るのは好きで、ほしくなって何度かパパとママにお願いしたことがあるんだけど「小学生に伊達メガネはまだ早い!」っていわれちゃったんだ。
でも、このメガネは、度が入ってない。アタシにもかけれる!
このメガネ、絶対ほしいよ。でもこれアタシのじゃない。誰のメガネなんだろう。
トントントントントン……
アタシが浮かれてると、突然階段を上ってくる足音が聞こえた。ここは蔵の二階だ。アタシの大好きなおばあちゃんの家。その庭に建ってる大きな蔵にアタシはいる。
トントントントントン……
止まらない足音、誰だろう。パパ? ママ?
そしてその人の姿が見えた。それは、知らないオジサンだった。
アタシのいる窓際の机から階段までは、ちょうど蔵の端っこどうし。学校の教室の一番前から後ろと同じぐらい離れたところだ。そこに突然現れたオジサン。
「あれ、誰かいるのか?」
オジサンがしゃべった。アタシは突然のことで驚いて固まってしまっていた。オジサンはこちらに歩き出す。
「どこの子だ? 勝手に入っちゃ駄目じゃないか」
そう言われたアタシは胸がドキドキして、こわくなって窓際の机に寄りかかっていた。そうこうしている間にオジサンは目の前までやってきた。背の高い人で、腰を曲げてアタシの顔を覗き込んでくる。
「どこの子だって聞いてるだろう?」
「勝手じゃないもん」
アタシはとっさにそう応えた。
「へ?」
「勝手に入ってないって言ってるの!」
二回目は自分でもビックリするくらい大きな声が出た。
「ここ、おばあちゃんちだもん。アタシのおばあちゃんちだもん!」
大きな声でそう言うと、オジサンは口元に手を当てて何かを考えているポーズ。
「おばあちゃんち、ここが?」
そう聞かれてアタシは全力で首を縦に振った。
「……てことは、君もしかして」
そう言ってオジサンはアタシの顔に手を伸ばしてきた。アタシは怖くて目をつぶっちゃったけど、別に何もされなかった。おそるおそる目を開けるとソイツは、アタシがかけていたメガネを手に取って、そしてにっこりと笑ってこう言った。
「やっぱりそうだ、さゆ吉だ」
さゆ吉。
そんな風に呼ばれたのは、すっごく久しぶりだった。アタシの名前は
「ユキ兄!?」
「おお、やっぱそうかあ! なーんかでっかくなったねぇ、さゆ吉」
そう言ってワッハッハと笑ったのは、ユキ兄こと
「おお、覚えててくれたんだ。久しぶりだな。前会った時はこんくらいだったのに」
っそう言ってユキ兄は両手でドッジボールぐらいの大きさを表した。
「そんなにちっちゃくないし!」
「あはは、悪い悪い。あとなんか驚かせちったかな?」
「ほんとだよ、知らないオジサンが入って来たと思った」
「はあ? オジサンはひどいだろ」
そうだ、あの時階段を上がって来た時に見えた人はもっともっと年上に見えた。
「ユキ兄っていま何歳?」
「15。4月から高1だよ」
「ってことはー、5こ上だ。」
「だな。」
「じゅうぶんオジサンじゃん」
「こいつ!」
「あははは、ごめんごめん。でもなんでかな、ぜったいにもっと大人の人に見えたんだけど。」
「さゆ吉、おまえ本気で言ってる?」
ユキ兄は、まじめな顔をして、アタシを見つめた。
「う、うん…… でも悪口のつもりじゃないよ? ほんとにそう見えたんだ」
ユキ兄の声が真面目すぎて、アタシはなぜか言い訳しちゃってた。
「さゆ吉いま、このメガネかけてたよな」
「うん」
「視力いくつ?」
「えっ?」
「視力だよ、目の良さ。目はいい? 悪い?」
「あ、それなら、2.0だよ」
アタシは胸を張ってそう言った。
「マジか。人間一つはいいところあるもんだな」
「ちょっと、どういう意味?」
「ハハっ。わりぃわりぃ」
こいつ、絶対、悪いと思ってない。
「でも、ってことは、このメガネ本物なのか?」
「本物って? アタシがかけてもダイジョブってことは、伊達メガネでしょ?」
「フフっ。それが違うんだよ」
そう言ってユキ兄は、机の上にあった古臭い本を手に取った。
「ここん所、見てみ?」
ユキ兄が指差した場所にはこう書いてあった。
《未來眼鏡》
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