第91話 ヤンデレ少女のデレの部分
「「え? お咎めなし!?」」
次の日、『オオイタ』のギルドに呼び出された俺たちは、ギルド長から無罪と言い渡され声を合わせてそう驚いた。
ギルド長さんはもう歳のようで、髪の毛は全て白髪のお爺さんであった。
年寄り特有の嫌味のない優しい笑顔を常に浮かべていた。
ギルド長さんの話を聞き、その内容を俺は繰り返す。
「つまり……ギルド内に紛れ込んでいた『アンノウン』を殺害したことは、罪どころか表彰もの…………ということなのか?」
「違うわよタケル。その表彰はあんたが『オオイタ』の一角を破壊したことで帳消し、私たちは罪にも問われないし、表彰もされない! あんた前にもこんなヘマしたわよね!!!!このクソタケルがああああ!!!!」
「許してくれよ! 俺だってわざとじゃないんだって!」
ミリアはそう言いながら俺を追いかけ回す。
暴走したミリアをギルドの役員さんが止め、俺はなんとか助かった。
前にも、というのは『ミト』の時に戦ったバフォメットの話だろう。
俺があいつの魔法石を破壊しなければ、報酬がもっと高額の取引になったというあれだ。
なんだかんだ言って、俺はミリア様率いる『トウキョウ』倒し隊(旧)の足を引っ張りすぎてる感が否めないな。
ギルド長さんは話を終えると、最後に『オオイタ』内の地獄めぐりのフリーパスを俺たちにくれた。
表彰を取り消ししたが、殺人ギルドを排除した俺たちは(というかクレハは)このギルドを救った英雄のようなものらしく、もてなせないのは観光を売りにしているギルドとして恥だとか言っていた。
観光地魂半端ない。
彼からフリーパスをもらってギルドから出たところで、1つ思い出したことがあった。
「アイリ、体調はどう?」
「はい! 今日もとても調子が良いですわ! ミリアさんの魔法石は本当に凄いですの」
「でしょう!? 流石……」
「それは良かった。せっかく旅行に来たのに体調不良じゃつまらないもんな」
「ちょっとタケル! 私がまだセリフの途中なんだけど!?」
また自分語りを始めそうになったミリアを俺は横からさっと止めると、彼女は非常に不満げな表情でそう言った。
いつもならもう少しうじうじと不満を垂らしていたところだろうが、今日のミリアは一味違う。
この二日間色々とありすぎて『オオイタ』の観光が全くと言っていいほど出来ていなかった彼女は、今日という日を待ち望んでいたのだから。
「まあいいわ! 今日のミリア様は寛大よ。感謝しなさい! ほら、さっさと行くわよ! 残りの五日間遊んで遊んで遊びつくしてやるんだからねっ!」
「み、ミリアさん待ってですわ!」
勢いよく走り出すミリアの背中を追ってアイリも走り出す。
二人の距離は徐々に離れるが、途中でミリアがそれに気付き、彼女と手を握ると満足げな表情で遠くに行ってしまった。
馬鹿みたいにはしゃいでるな。
ギルド前には俺とクレハが残される。
俺たちは互いに顔を見合わせ、苦笑いした。
「二人とも行っちゃったね」
「だな。ミリアのやつ、もうどっちが子供なのか分からないな」
「私たちも行こうよ。一応観光は昨日までしてたけど、まだまだ回れてないし、ラッキースケベなイベントをまだ全然起こせてないから」
「…………無理して起こさなくてもいいんだぞ?」
「そんなー! それは無理! だって私は脳内ピンク色のクレハさんだよ? 恋する乙女は地道なフラグ立てを怠らないのです!」
クレハは上目遣いでそう言った。
そして予備動作なしで顔をスッと寄せ…………俺の頬にキスをした。
両手を広げクルクルと回る。
空に輝く高い太陽を見上げ彼女は満面の笑みを浮かべた。
「私、ずっとタケルくんのことを好きでいるね!」
「ああ! 俺もきっと……いつかクレハに恋をする」
その言葉を聞き、彼女はさらに表情を明るくし、精一杯飛び上がった。
「私は、今……恋してる!」
全身で幸せを表現する彼女を見て俺は自然と頬が緩む。
ちょっぴり怖い俺の友人が少し優しく、そして少し魅力的になったと、俺は感じるのであった。
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