第73話 闇夜の殺人鬼

 明日の支度を終えたところで俺は自分の借りた部屋を見渡す。


 部屋の端っこに山積みにされた瓶が目に付く。

 置かれているのは大量のそれの中身は、聖水だ。


 ミリアがリリに自分の実力を測ってもらうに当たり、負傷したミリアの宝具を直す必要があった。

 その宝具を直すためには『時渡り』をしないといけないみたいで、その『時渡り』をするのに大量の魔力が必要らしい。

 ミリアはそもそも壊れた宝具を直すのと、クレハのお爺ちゃんから宝具の作り方を教えてもらうために『時渡り』をしないといけなくて、丁度大量の魔力を含む聖水の豊富な温泉地……『オオイタ』に来たのだそうだ。

 出発前に言ってた目的ってこれか。


 とにかく『時渡り』には聖水が必要で、大量に買い込んだが、置き場所に困って俺の部屋に置くことになったということだ。

 自分の部屋に置け、と言いたいところだけど、ミリアは明日大事な予定が詰まりすぎている。

 少しぐらいの我儘は許してやろう。


 さて、俺も寝るか。

 クレハが夜這いにくるとか言ってたから、部屋に鍵をかけておこう。

 流石に窓から入ってくることはないだろうし、そっちはいいかな(フラグ)。

 今日は色々ありすぎて少し疲れた。

 俺がベットに横になった後窓の外の月を見上げ、ゆっくりと目を閉じた。


 *


 灯りのない街から少し離れた雑木林。

 黒ずくめの男が3人足を引きずり、逃げ惑っていた。


「sdhfgzきえうrjぎえおうぇh! lせうんろsdrぐきゅえおf!」


 どこの国の言語か、少なくとも日本語ではない言語で男の一人が話す。

 恐怖に支配されたその声音は不意に途切れる。

 二人目の男が違和感に気付き、先ほどまで逃げていた男を見る。

 そして驚愕する。


「ばひbrちjあmゔぉりhしtjhゔ!? ぉいれいまtゔぉいあs????」


 先ほどまで喋っていた口はおろか、首から上が既に消滅した人体がドサッと小さな音を立て、倒れる。


 仲間が助からないことを察した男は逃げようと足を一歩踏み出す。

 踏み出そうとしたが、それは叶わない。


 彼の左足は既にそこには無かったからだ。

 左足に続き、右足、左腕と順々に四肢の感覚が途絶えて行き、ついに意識も途絶えた。


 最後に残された男は恐怖のあまり失禁する。

 目の前に立ちはだかる、正体不明の殺人鬼を前に絶望を隠せない。

 必死の覚悟で手に持ったナイフを敵に投げるが、それは殺人鬼に当たる直前で消滅する。


 殺人鬼は男に近付くと頬を寄せ…………キスをした。


「だーいすき」


 悪魔のような行いに似合わない、甘い蠱惑的な声を最後に殺人鬼は男の前から姿を消した。

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