第71話 大陸に迫る危機!?

 謎のラッパー集団(クレハとミリア)に絡まれた後、俺たちはクレハが予約してくれていた宿屋に向かうことになった。

 クレハのことだから絶対俺と相部屋にしてくるだろうなと身構えてたんだけど、どうやら部屋を全員分別々に取ったらしい。

 珍しいこともあったもんだと感心したのも束の間「夜這いって萌えない?」という発言で全てが台無しになった。

 クレハさんの脳内ピンク具合は今日も通常運行です。


 全部で4つ予約した部屋のうち、俺が泊まる予定になっていた部屋にリリ達が集まり先ほどの話し合いをしようということになった。


「えええええ!!!!? おにーちゃん剣の人の仲間だったの!?」

「実はそうだったんだよね……こんなラッパー知り合いと思いたくないんだけど残念ながらそうなんだ……」

「ちょっとタケル! あれは演技! 普段はあんなことしてないわよ!? そこは勘違いしないでほしいわ!」


 ミリアは俺の胸ぐらを掴みながら赤面し、リリに弁解する。


「それとタケル! このミリア様とクレハたちが仲間ってバレないように行動するように態度で示しながら、なんですぐにバラしちゃうのよ!」

「それは、リリの話を聞いて、仲間と知られても悪いことにはならないと思ったからだ」

「どういうことよ」

「俺は最初、ミリアが犯罪……つまりは悪いことをして追いかけられているものだと思ってたんだけど、どうやら違うと感じてる。確認だけど、ミリアを見つけたら殺すように言われてたりしないよね、リリ?」

「そんなこと言われてないの。早く捕まえてこいって言われてただけなの」

「なっ!?」

「だから、バレても俺たちに危害が加わるようなことはないなと思ったってわけだ。それを前提に2人の見解を話してもらいたい。まずミリアから」


 先程から緊張感むき出しだったミリアは相手に敵意がないことを悟ると、力が抜けベットに腰掛けた。


 今日俺が使う予定のベットに腰掛けるのは少し無礼じゃないかと思ったりするが、俺はそれ以上に無礼な行為をしている人間を今この目で見てるので、あまり気にならなかった。

 クレハはなんで俺のベットで我が物顔で寝てるんだ?


 ミリアは手に持っていた細剣を己の加護ギフトでしまい込むと、話を始める。


「私が指名手配になった経緯よね? 事の発端は私の犯罪的な美貌が……」

「冗談はいいからちゃんとやってくれ」

「分かってるわよ……少し余興を挟もうっていう私の粋な計らいじゃない。とにかく、ある日私は『トウキョウ』上層部からのスカウトが来た。それに対し、自分の家族と一緒じゃないと嫌だと断った。そうしたら家ごと家族を抹消された。それに怒った私は目につく建物を片っ端から持ってた武器たちで壊して、上層部から送られてくる雑魚兵士たちをボコボコに。そうして最後にやってきたそこの幼女にやられて逃げて今に至るって感じよ」


 彼女は一息に言い切ると、自分を倒した幼女に対しで引け目があるのか顔を彼女から逸らした。

 ミリアが自分の事情を話している間、リリは何か言いたげだったが、それは俺が制止した。

 彼女の知っている事実と食い違いがあるのは間違いない。

 リリは自分の知っている事、俺が先ほどシロツメグサの草原で聞かされた話を復唱する。


「リリは単純に『トウキョウ』の街を壊して回る危ない人……しかも兵士さんたちでも勝てないような人がいるから、仕方なく出動したの。そしたら、そこの剣の人がいて、逃げ足が速いから取り逃しちゃったの。それで後からそのことを王様に話したら、悲しそうな顔してて、お仕事中でもお休み中でもその人を見つけたら捕まえてこいって。何だか、特別待遇で招待したのに何が不満だったのかとか頭を抱えて嘆いてたの」

「ちょっと何よそれ、特別待遇だなんて聞いてないんだけど私!」

「リリ、特別待遇って具体的に何だ?」

「何だかお家ごと『トウキョウ』上層部の城壁の中にお引越しさせたらしいの。他のギルドから引き抜いてきた強い人たちは、ほとんどが寮……というよりもホテル? 少なくともおにーちゃんたちが借りたこの宿より綺麗なとこで生活することになってるんだけど、剣の人のお母さんの願いで家ごとお引越しになったらしいの。リリあそこのアップルパイ結構好きなの」


 アップルパイってなんのことだ、と思ったが確かミリアの指名手配の写真は家の手伝いをする三角巾姿だったとかなんとか言ってたような。

 もしかして実家は飲食店か何かかなとか思ってはいたけど……

 まさかと思いミリアを見てみると目をいつも以上にパッチリと見開き、驚きを露わにしていた。

 ゆっくりと立ち上がり、リリの肩をガッチリと掴む。


「ママたちは生きてるの……?」

「たぶん。リリは剣の人とアップルパイのおばちゃんが家族なのかは知らないけど、王様の言ってることが正しければ、あなたのお母さんは生きてるの」

「そ、そう…………ちょっと考えるわ」


 そう言ってミリアは俺たちに背を向けて天井を眺めていた。

 自分の家族が生きていたという事が分かれば誰しも感動するだろう。

 とりあえずそっとしておくか。

 この部屋にいるクレハを除く3人はそんな雰囲気を察し、彼女に声はかけなかった。

 クレハは俺が使う枕にご執心で話を聞く気は無い様子。

 何か仕込まれてたら怖いからクレハの枕と交換しておこう。


 しばらくの後、ミリアはこちらを振り返る。


「ちょっと嬉しくて、目頭が熱くなったわ。泣いて無いからそこら辺勘違いしないで欲しいわね」

「こんな時まで強がんなって、泣きたい時は泣いた方がいいと思うぞ」

「いいえ、泣いてられないわ。確かに両親が生きていたってのは嬉しい、だけど、それが本当なのか確証がないと思ったの。この子の言ってることが全てデタラメの可能性だってある」

「う、嘘なんてついてないの! リリは良い子だもん!」


 リリは疑いの目を向けてくるミリアに噛み付く。

 そう言えば、前にもこういったことがあった。

『ウツノミヤ』でフクダさんに協力してもらえることになったにもかかわらず、ミリアは慎重に決断をしようとする。

 恐らくだが、ミリアは証言をした人間が自分より強い、最強の魔法少女リリだからここまで心配になっているんだと思う。

 毎度毎度、面倒な性格してんなと思いながらも、だからといって「ほら信じろよ」という台詞を彼女に浴びせるのはそれこそ納得のいかない結末になるんだと思う。


 ミリアを納得させる方法を考えている間も、彼女は自分の疑問を一回り以上小さな女の子にぶつける。


「まず分からないのが、なんで私だけが特別な待遇でもって『トウキョウ』に招かれようとしていたのか。あんたは知ってるのかしら」

「それはリリにも分からないの……」

「待遇といえば、少し引っかかるのよね……私以外の引き抜きされた人間たちの処遇について、どうしてこの宿より良い場所で生活しているのかしら。てっきり奴隷の様に扱われているものだと思ったのだけど」

「それは言えないの…………たとえ誰であってもそれは話してはならないって王様に言われてることに、触れないとそれは説明できないの」

「話せないって、やっぱりやましいことがあるのかしら? だったら……」

「ちょっと待てミリア。一旦落ち着け。それと……リリ。リリの言っている話しちゃダメなことって、さっき俺に教えてくれなかったのと同じことか?」

「うん、そうなの……」


 リリは力なくそう答える。

 彼女の話を聞いている内に、段々と『トウキョウ』が隠したがっている事実に近づいてきている。

 彼らの秘密がなにかは知らない。

 しかしリリ曰く、それには正当性のある理由が存在している。

 だから『トウキョウ』の引き抜きという蛮行は、他国や他のギルドの戦力を削ぐことが理由ではないのだろうと俺は思う。

 そして、他国から引き抜いた強者たちの待遇がその説をさらに補強する。

 益々、最初に考えていた自然災害などに対する対策で人を集めている説が濃厚になっていると思う。

 ミリアが特別待遇であるのは、ミリアの力、特に言えば加護ギフトがこれから迫る謎の脅威に対しての効果的な対策になるんだろう。


 リリの話を一度切り、俺はミリアに問いかける。


「ミリア、この世界で最も脅威的なことはなんだ? 地震か? 台風か? 噴火か? それ以上のものはあるか?」

「何よ突然……何があるかしらね……モンスターの襲来……」


 ミリアが考えている間に俺は視線をリリへ移す。

 先程俺と一緒にポーカーをしていた10歳程度の幼女はポーカーフェイスをすることができない様で、あからさまに焦りが表情に出ていた。方向性は間違っていない。


「いや、違うわね。1番の脅威と言われたらあれね。『魔王』の発現、それで決まりね」

「わっ!!」

「どうしたんだ、リリ? 『魔王』に何か悪い思いでもあるのか…………って、あんまり意地悪するのは良くないな」


 俺がリリの顔を覗き込むと、彼女はプクッと頬を膨らませそっぽを向いた。

 可愛い。


「『魔王』が発現するとどうなる?」

「それはその『魔王』が持っている加護ギフトによるわね。前回発現はおよそ150年前、その時は【狂化バーサーク】で、『センダイ』から北全域がグール化したらしいわ。恐ろしいわね」

「うわ……思ってたよりやばいんだな『魔王』」


 結構前にミリアが説明してたことだけど、『魔王』とは【魔王因子】とよばれる5種類の加護ギフト、【ダーク】【破壊デストロイ】【吸収ドレイン】【狂化バーサーク】【支配ドミネイト】のどれかを持っている人間が、【王】と呼ばれるある種、加護ギフトの境地に至り、かつ、悪しき魂を持っているとなってしまうというものだ。


「一応補足、学者によって『魔王』かそうでないのか議論になっている微妙なラインの『魔王』もどきが50年前にいたらしいわ。それを含めたら前回発現は50年前になるわね」

「『魔王』もどき? なんじゃそりゃ」

「彼のしたことが悪なのか善なのか、そこが議論の対象になっているわ。彼は一切人を殺したりはしていない。それ以上に、誰にも人を傷つけることをさせなかったの。彼の加護ギフトはアイリちゃんと同じ【支配ドミネイト】。【王】にまで登りつめた彼は自身の所属していた『オオサカ』の国民全員に自分と同じ倫理観を植え付けた」

「なるほど。それで犯罪が起きなかったということか」

「その通りよ。犯罪件数最大で有名なあの『オオサカ』がおよそ30年間国民同士の小さないざこざさえ無かったというのはあまりに異常な光景よ。それで、犯罪が起きなかったことは良いことなのだけど、人を無理やり善人にする行為は善なのかどうかで学者は揉めてるってわけ。本当にどうでもいいわよね」


 ミリアは呆れた様にそう言った。

 この問題は難しい問題だよなぁと思う。

 根っからの悪人を善人に無理やり矯正するのは一見正しそうだけど、矯正された方からしたらたまったものじゃないかもしれない。

 でも、俺は彼のしたことは悪行だとは思わないけどね。


 楽しくなってミリアと色々話してしまったが、本来の目的は達成した。

 リリの表情を見るに『トウキョウ』の隠したい事実というのは『魔王』の発現だろう。

 そして、その『魔王』を倒すためにミリアの力が必要になるため、『トウキョウ』は意地でも彼女を欲している。


 先ほどの善悪の話は、どちらが正しいのか議論を醸す。

 しかし、『魔王』の討伐は間違いなく正しい行いだと俺は思う。

 リリが『トウキョウ』の行動に正当性を感じていたのはそういうことか。


「ミリア、ここからは少し黙って話を聞いてくれ」

「何よそれ、私に情報を聞き出すだけ聞き出してあとはさよならってわけ?」

「違う。お前が喋るとややこしくなるからだよ。ミリアは、俺とリリの話から色々察してくれ」


 俺はそう言うと、リリの方へ目をやる。

 分かりやすく嫌な顔をしたリリは未だに少し怒っていた。可愛い。

 リリを溺愛しすぎている。


「リリは『トウキョウ』の秘密は教えられないって言ったよね」

「…………そうなの」

「じゃあ、もし仮に……だよ? 俺がその秘密について気付いていたらどうする?」

「…………それはもう仕方ないの」


 彼女はため息をつき諦めた表情で両手を挙げた。

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