第64話 2度目の敗北

「第一の門…………解錠。不条理へ至る銀鍵レーヴァテイン!」


 少女が小さくそう呟くと急激に魔力が膨張し、私は背筋の凍る様な感覚に襲われる。

 初めて見る魔法少女リリの宝具の力に私は圧倒されていた。


 落ち着け、落ち着くのよ私!

 私は最強無敵超絶可憐な美少女ミリア様でしょ!?

 ビビってんじゃないわよ!

 冷静に分析して物事を対処しなさい。

 友人の言葉を思い出せ!

 まずはカテゴライズ……どの様なタイプの宝具か見定める。

 不可避の輝剣クラウ・ソラスの様な攻撃系?

 それとも真実を導く光玉リア・ファルの様な強化系?

 今までの戦闘で彼女はあの宝具……レーヴァテインを打撃用の武器として扱っていた。

 ならば前者ね!

 構成するパーツが動き、宝具は最初よりも一回り大きくなった。

 自身の大きさを変えることで破壊力を増す宝具……変幻自在の黄金棍ニョイボウを私は知っている。

 恐らく、それに似た能力に違いないわ!

 だとすれば私が気を付けるべきは一つ。

 彼女の間合いをこれまで以上に気にかけること。

 予想外の範囲を持つ武器に対しては必要以上に距離を置くことで安全に対処が可能だわ。

 幸い、私の加護ギフト【時間】はそういうのに長けている。

 これなら勝てる。勝ってみせる!


 作戦の方針が固まったところで、私は疾風迅雷の細剣ブリューナグを握り直し、一回り小さい目の前の敵に視線を合わせる。

 リリはまるでこちらの思考が読めているかの様に、薄気味悪く笑うと自信に満ちた眼で両手を前に突き出した。

 私は彼女のその行動で今までの思考が裏目に出ていたことを知る。


 しまった、強化系の宝具じゃない!


「耐えて見せてなの……【サンダー】ッ!!!!」


 彼女の掛け声と共に魔法はその効果を発揮し、彼女の両手の先に現れた彼女の身体を覆うほどに大きな魔法陣から一筋の雷が放たれる。

 空気との摩擦でバリバリと効果音をつけながら迫まった。

 必死の状況の最中私は【時間】により思考時間を短縮することで迫る死を跳ね除けるための策を練る。


 あの雷は本物の雷ではないはず。

 現に私がこう考えられているのが証拠だわ。

 あれは電気そのものではなく、魔力に電気が乗った攻撃。

 魔力に対してなら私は防御する術を持っているッ!


 思考が終わると私は手に持った疾風迅雷の細剣ブリューナグの柄を放たれた雷に向け、剣先を地面へと突き刺した。

 突き刺したと同時に雷と接触する。

 恐ろしい程の魔力を帯びたそれは剣の柄に向かって取り込まれていく。


「耐えなさい、疾風迅雷の細剣ブリューナグ……ッ!!」


 クレハの祖父から頂いた宝具……疾風迅雷の細剣ブリューナグには2つの特徴がある。

 1つは【風】の魔法石による目に見えない衝撃波が出せるということ。

 そしてもう1つは、魔力をよく通すその性質から、今私がやっている様に魔力攻撃を受け流せるということ。

 柄へと取り込まれた魔力は剣先から放出され、地面に対し高濃度の魔力と電気が流れる。

 地面に流された電気で私は感電し痛みを感じるが、それでも耐えられないほどのものではなかった。

 この調子ならばやり過ごせると思ったのも束の間、雷を放つ少女の唇が再び動き出す。


「第二の門……解錠」


 彼女の言葉に呼応する様に機械仕掛けの鍵は再び変形を始め、パーツとパーツの隙間に吸い込まれる様な黒だか藍だかの混じった色が覗く。

 あの色を私はよく知っている。あの色は私の固有加護……


 そこまで思ったところで彼女の魔法の威力がさらに上がり、私の思考は目の前の攻撃への対処に切り替わる。

 疾風迅雷の細剣ブリューナグで吸収しきれない程の魔力が襲う。

 この状況で私が生き延びるための選択肢は1つしかなかった。


「来なさい無限の炎鎖ダグザ! 私を包めッ!!」


 同じく魔力を吸収する鎖の宝具を取り出し、盾のように何重にも重ね己が身の前方に張り巡らせる。

 疾風迅雷の細剣ブリューナグで受け流しきれなかった分の魔力を無限の炎鎖ダグザに吸収させることで脅威を跳ね除ける!


 作戦を実行し、想定通り無限の炎鎖ダグザに魔力が集まっていく。

 しかし…………


「しまった……! 無限の炎鎖ダグザは今……」


 完全に迂闊。

 無限の炎鎖ダグザは今フクダに壊されて故障中だったじゃない!

 しかし炎を出すことは不可能でも魔力を吸うこと自体はある程度出来るはずよ!


 ミシミシと嫌な音をたてながらもあぶれた魔力を無限の炎鎖ダグザは吸い始め、しかし吸引力の弱まった私の宝具の隙間からリリの魔法が飛んでくる。


「くっ………………きゃあああああああああっ!!!!」


 全身に想像絶する激痛が走り私は思わず悲鳴をあげる。

 数十秒その地獄を味わった後、リリから放たれる魔力の本流は収まり、私は展開した宝具を霧散させる。

 左目がピクピクと痙攣している。

 電撃を受け過ぎたからかしら。


 こちらは全く余裕がないというのに、こちらがどれほどの痛みを受けたか想像できないというように、リリは面白そうに笑い手を再び前へ。

 まずい。

 第二射が来る。

 次はもう避けられない……ッ!


 流石にもうここまでかと思ったところで、目の前の世界最強の少女は解錠した鍵を再び施錠し、重そうな鍵を腰にかけると私に向かって走りだす。

 まさか、最後の一撃は自分の手でということなのかしら?

 でも仕方ない……私は負けた。2度負けた。

 1度目は1万あまりの武器たちを失い、2度目では命を失う。

 これは順当な結果だわ。

 思い残すことがあるとすれば……最後に私のワガママに付き合ってくれた彼に…………


 私は目を瞑り最後の時を過ごそうと決心する。

 魔法少女のリズミカルで軽い足音がこちらに向かって来る。

 自然と流れる一筋の涙が地面に落ちたかといった瞬間


 足音は私の横を通り過ぎる。


 何故だと疑問を抱き、通り過ぎた足音の主を潤んだ眼で捕捉するとその視線の先に私の仲間たちが……


「おにーちゃん!!!! 探したの探したの探したのー!!!!!!」


 そう言って魔法少女は冴えない顔をした私の大切な人に抱きつきキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る