第27話 ミラクルライト

 崩れ落ちるダンジョンを背に俺の緊張の糸が切れ、膝が笑い俺は体勢を崩す。

 背中に乗ったアイリが体を回転させ、かろうじて地面に衝突するのを防いでくれた。

 そしてそのままアイリに仰向けにさせられる。

 ミリアは俺の体を見ると、随分と驚いた様子で駆け寄ってきた。


「ちょっとタケル! あんた腕はどうしたの、腕は!?」

「先生の腕はこちらですわ!」


 驚愕するミリアに間髪入れずアイリが状況を説明してくれた。


 説明を聞くとミリアは半ば信用していないかのように俺を睨むが、何故信用しないんだと俺はツッコミたい。

 事実、俺の腕は今体から離れてるんだけど!?


 アイリが心配そうに超絶美少女の魔法使い様にすがりつく。


「先生の腕は治るのですわよね! 大丈夫ですわよね!」

「え、ええ。大丈夫よ。心配しないで。でもそれをするには少し力が足りないの」

「そんな…………」


 アイリは瞳をウルウルとさせ肩を落とす。

 それに合わせて俺の腕の痛みが若干だが込み上げてくる。

 もしかして魔法が解けかかっているのか?

 感情によって魔法の制御が効かなくなっていると言うのも考えられる。

 アイリとつないだままになっている右腕を少し強く握ると、アイリはすぐにそのことに気付き、もう左手の痛みは治まっていた。

 やっぱりアイリの魔法はすごいな、と感心してしまう。

 それはさておき、ミリアは何やら神妙な面持ちでアイリに提案する。


「力が少し足りないだけなの。力がわけばすぐにでもタケルを治せるわ」

「そ、そうなのですの!? 私に手伝えることがあったらなんでも言ってくださいですわ!」

「今なんでもって……コホン! じゃあアイリちゃん? 『ミリアママがんばえー!』って言ってくれるかしら?」

「…………えっ?」

「おい」

「『ミリアママがんばえー!』よ。持ってるタケルの左腕をミラクルライトの代わりにして振りながらだと、さらに効果がますわ!」

「日曜朝の番組の映画をなぜお前が知ってるんだ!!」


 痛みを感じないのをいいことに俺はミリアに盛大にツッコム。


 ミリアは確かに博識だけど、俺の元いた世界のニチアサ、それもマニアックな映画の知識まで備えてやがった!

 並行世界を信じるか? とか前に聞いたら、ミリアはすぐに信じて拍子抜けしたことあったけど、そりゃあすぐに信じただろうね!

 だって俺より詳しいもん!

 あのライト、ミラクルライトって言うんだ、知るか!


 ミリアはやはり不満げな表情で俺を見るが、すぐにすました顔してアイリに向き合う。


「頼んだわ、アイリちゃん。今タケルを救えるのはあなたしかいない!」

「わ、分かりましたわ! …………ミリアママがんばえー、ですわ」

「声が小さいわ! もっと魂込めて叫ぶのよ!」

「ミリアママがんばえー、ですわ!」

「もっと!」

「……ミリアママがんばえー!!!!」

「いいわその調子よ!!!!」

「ミリアママがんばえー!!!!!!」

「力がみなぎってきたぁああああああ!!」

「いいから早く治してくれないか!?」


 体から何か黄色いオーラを出したアイリは魔力を解放しているんだと思う。

 アイリの声援を元に魔法の国の力を解放してるんだ。早く治せ。


 ミリアは力任せに左手で宙を切ると、空間の裂け目が出来上がり、その中から白く発光する境界が曖昧な球を取り出す。

 そしてその球体を握ると、パリン! とガラスが割れるような音を立てそれは割れる。

 キラキラと、太陽の光に反射して何か粒子状のものが舞う。

 不可避の輝剣クラウ・ソラスを振るったときの粉によく似ているがあれは魔力なのだろうか?

 ミリアは右手に緑色の魔法石、左手に俺の腕を持つ魔法石の力を解放する。


 最初、線をなしていた緑色の光はどんどんとその強さを増していき、やがて放射状に光はは拡散していく。

 光の強さに負けて目を瞑り、5秒程度。

 光が収まったのを見計らい目を開けると、俺の左腕はきちんとあるべき場所に戻っていた。

 起き上がり左手にを動かそうとすると、それは正常に機能していた。

 俺の腕は治ったがそれ同時にミリアの持っていた緑色の魔法石は割れ、壊れる。

 ミリアは唖然とした表情でそこにあったはずに魔法石を見た。


「タケル、あとで弁償ね」

「あ、ああ……すまんな……」


 いくらぐらいするんだろう魔法石って……

 働き口のない俺が返せる額なのか知らないが、それでも腕を治してくれた礼として一生かけてでも返していこうと思った。


 暫し安堵の時を過ごせるかに思えたのもつかの間、バラバラに崩れたダンジョンの中から死んだはずの化け物が姿を現す。


 ダンジョンの下敷きになったのにもかかわらず、全身青い体のねじまき角のミノタウロスは全くの無傷で俺たちの前に立ちはだかる。


 俺は苦虫を噛むように顔を歪ませ、アイリは恐怖で怯えていた。

 反対に、ミリアは驚きと好奇心、そして焦りのようなものを感じさせる顔で奴を見据えた。


「バフォメット……こんなところで出会えるなんてついているんだかついていないんだか分からないわね……」

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