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「思っていたより簡単でした」
「変わるのがですか?」
ロンググラスを傾けながら彼女はコクン、と頷く。赤いリップの彼女には甘くてピリリ
と刺激のあるこのカクテルがよく似合う。
「髪形を変えてみたら、意外とみんなすんなりと受け入れてくれて。服装もメイクもネイルも変えたけど、むしろこっちの方がいいとか言ってくれて」
「へぇ」
「仲間外れにされたらって構えていたのに全然で。拍子抜けですよ」
案ずるよりも産むが易しって言うしね。
「もちろん陰口言ってくる子とかもいますけど、今は少しも気になりませんね。勝手に言ってろって感じで」
「変わりましたね。いや、孵化されというか」
「ふふ、そうかもしれません。勇気を出して一つ変えてみると、簡単に世界は変わって行きました。自信がついたって言うか。こんなことなら最初からしておけばよかったなって」
ニシシと笑う彼女は肩の荷が下りて軽いように見えた。それこそ本当に蝶になったかのように。
「だからマスターには感謝感謝で」
「いえいえ、私は何もしていませんよ。全てサオリさんが行動されたからではありませんか」
「いいえ、マスターの一言がなければ、いや、マスターがこのお店を開いてくれなければ、マスターがいなければ私はこんなに前向きになれなかったかもしれません」
「そんな大げさな」
「そんなことありません。髪形を変えただけでこんなに変われたんですよ? マスターに出会えたかどうかで私の世界は変わったかもしれません。ある意味運命ですね」
「ふふ、ロマンチックですね。でも、ありがとうございます。嬉しいです」
「えへへ」
「そんなに褒めて頂いても何も出ませんけどね?」
なんて、ウインクを飛ばしてみる。サオリさんは楽しそうに首をすくめた。
「でもこれは他のお客様には内緒ですよ?」
差し出した豆皿に乗っているのは、トリュフ、それとリップと同じ色のダイヤのチョコレート。
「一生通いますね」
「お待ちいたしております。いつでも、ね」
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