道端の小石

カゲトモ

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「その髪型、やっぱりとてもお似合ですね」

「ふふ、そうですか?」

 人の良い笑顔で答えたのは、落ち着いたアッシュカラーのマッシュヘアが良く似合うサオリさんだ。

「お気に入りなんです」

「ストレートの長い髪も素敵でしたけど、こちらの方がサオリさんの魅力が引き立っているような気がします」

「もぉマスターは口が上手いんだから」

「私は本当の事しか言いませんよ?」

「そんなこと言われても、なにも出ませんからね? とりあえず次はジンジャー・ジンジャーで」

「かしこまりました、ありがとうございます」

 以前サオリさんが訪れたとき、彼女は周りに流されて本当の自分が出せないことを悩んでいた。本当の自分はこんなのじゃないと分かっているのに、それでも変えられない自分が嫌だと。自分を出してしまって、もし受け入れてもらえなかったらと思うと怖いと言っていた。

 その彼女が今日、好きだと言っていたマッシュヘアにして来店したのだ。ファッションもザ・OLって感じのユルフワから、バシッと仕事のできるキャリアウーマンって感じに変わっていて、少しずつ変わっていくと言っていたのに結構な変化で驚いてしまった。メイクもしっかりと引かれたアイラインが目を引く。こんなに美人だったっけ?

「ふふ、これでも最初はね、髪形だけだったんですよ。マスターに相談した次の休みに思い切って髪を切ってカラーして」

「会社ではみなさんどんな反応でした?」

「そりゃ最初は驚いていましたよ。なんで髪の毛切ったの? 失恋でもしたのって。ある意味断ち切っているから正解なんですけどね」

 確かに、自分の殻を破っているのだから正解かも。

「で、髪形をガラッと変えたものだから、今度は持っている服が似合わなくなっちゃって。それじゃぁもう服も変えちゃおうってなって」

「それでパンツスタイルになったんですね」

「はい。だから持っていた服、ほとんど捨てちゃいました。お蔭で貯金が無くなっちゃいましたよ」

 それでもその顔は爽快で。いいじゃない、自分を変えるための投資なら、きっとこんなに素敵なお金の使い方はないはずだから。

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