第2話 『ピアノ五重奏曲「ます」』 シューベルト
これは、シューベルトさんの作品中でも、きわめつけの「うきうき」音楽です。
『なんとか世界音楽大全集』という感じの大きなLP全集やCD全集が、昔から時に出されておりましたが、この曲が外されることは、まずありません。つまり、とっても人気があるのだと思います。
実際、聞いていて、幸せいっぱいになります。
第四楽章は歌曲「ます」の主題による変奏曲になっています。
ところが、興味深い事は、歌曲の「ます」の歌詞は、けっこう悲観的なところもある、意味深な内容だという事です。乱暴な釣り人に、むりやり釣りあげられる「ます」さんを、とても哀れに思っている、この詩の筆者がいるのです。
あまり楽しくて仕方がないと言う内容でもありません。また、そこに全然関係はありませんが、この曲にCDでカップリングされる可能性が高いのが、「うつうつ」音楽の帝王と言ってもよい、同じシューベ先生の、弦楽四重奏曲ニ短調「死と乙女」だということです。
なぜ、この二つの両極端の曲がペアになることが多いのか? ちょっと不思議な感じもいたします。
この五重奏曲の楽器編成は、これまたちょっと変です。
つまりチェロでは無くて、コントラバスが使われているのです。
そこで、通常の弦楽四重奏団にピアノを入れればよいと言うのではありません。
多少、手間がかかります。
でも、新規の録音では無くて、既存のものを利用するのには、きっと丁度良いのでしょう。
録音時間も、CDならば良いところに収まりますし、気分の落差が大きいので、退屈もしません。
また、どちらも、歌曲のテーマが主題になった変奏曲が含まれています。
ただ、問題は、聞くときに、どっちを先にするかということです。
ぼくの感想では、かつての廉価版のLPや、CDの場合は、まず、「ます」の方が先に入っていることが多いように思います。
まあ、LPレコードならば、どっちの面を先に表にするか、だけの問題ですが、CDの場合は、「ます」は、飛ばしたいと言う時は、これまた少しだけ、手間がかかります。
それにしても、絶望的な「うつうつ」音楽を先に聴くか、それとも、きわめつけの「うきうき音楽」を先きに聴くのか?
片方だけにするのか?
どうでもいいようですが、ぼくなどには、非常にこだわりが生じます。
中学生時代に、お風呂の中にスピーカーを持ち込んでまで、良く聴いていたのは今にも死にそうな「死と乙女」です。(まあ、ぼくには、むかしから結構な「うつうつ」傾向はあったわけですね。)
それに対して、歌曲の「ます」はとてもいいけれど、このピアノ五重奏曲「ます」は、どうも苦手だったのです。
その理由・・、単に全体的に大きな繰り返しが多すぎるから。
でも一方で弦楽四重奏曲「死と乙女」の、その変奏曲部分については、こちらは「繰り返し」が付いていなければ、ぼくにはまったく面白くありません。
つまり、「うつうつ」気分は、いつまでも、うだうだと自分勝手に悩んでいることに、むしろある種の慰めを求めてしまうということなのでしょうか。
これは、あまり良い事とも思えませんが、それはそれで、一種の「感動」でもあります。
まあ、ものごと何事も、「ほどほどにしなさい。」という事なのでしょう。
きっと、この二曲がよくカップリングされるのは、そうした事を、制作者の方が、(あまりCDばかり買うな!と)教えてくれているのではないか、と思ったりいたします。(あれ、逆かな?)
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