龍野とヴァイスの性格をいじってみた

有原ハリアー

もしもヴァイスが大胆過ぎたら(自重しない)

 冬のヴァレンティア城の一室。

 私、ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアは、恋人である須王すおう龍野りゅうやを誘惑する算段を立てていた。

「うーん……あまり体は冷やしたくないのよね……」

 そう。クローゼットには、薄い布地の服や半袖、ミニスカートなど、冬には向かない服装ばかり。

 まあそれを言ってしまえば、今私の着ている服も薄い布地で、半袖、おまけにミニスカートではあるのだけど。

 この部屋――私のプライベートな空間――には、充分に暖房が効いているの。

 あっ、待って。ということは――


 冬に向かなくても、大胆な服装で……龍野君を誘惑できるわよね。この部屋で、だけど。


 何よ、心配要らなかったじゃないの、私のお馬鹿さん。そうよ、別に部屋の外で誘惑しなくても、いいじゃない。

 そうと決めたら行動あるのみよね。私は龍野君にしたためる手紙と、今夜着る服の準備を始めた。


     *


 よし、トレーニングは終わった。練習用標的の改良型も、楽々撃破出来るようになってきたな。

 俺が整理体操を終えて騎士服に着替えていると、ヴァイスが手紙を持ってやって来た。

「おう、ヴァイス。何だ?」

「うふふ、龍野君。これを」

 ヴァイスが手紙を俺に渡す。

 『直接言えばいいのに』と俺は思っているのだが、ヴァイスの習慣だそうだ。まあ、やりたいようにやらせてやろう。

「それじゃあね」

 カツン、カツンとハイヒールを鳴らして去るヴァイス。

 それを見届けると、俺は手紙を広げ、音読した。


「どれどれ……『龍野君へ。今夜九時に私の部屋へいらっしゃい』、か。あいつ、何のつもりだ?」


 まあ、何を企んでいようと……ヴァイスの自由だ。

 俺は一度体を休める為に、自室へ向かった。


     *


 うふふ。

 時刻は約束の九時。私は服装を整えて、ふかふかのベッドの上にいるの。


 そう。ベビードール(肌着の一種。結構きわどい)に近いネグリジェ(寝間着)、そして所謂いわゆる紐パンツを着けているわ。


 一言で言うと……「大概の男性はイチコロ」というワケね。

 さあ……後は寝たふりをして、準備完了。

 どういう反応を見せてくれるのかしら、龍野君? うふふふ、今から楽しみで仕方ないわ。


     *


 やれやれ……。思いっきり寝てやがる、ヴァイス。

 そろそろ俺も慣れてきたが、”呼びつけておいて寝ている”ってのは……。これはあれだろ、『手を出しなさいよ、龍野君』ってことだろ?


 だったら話は早いぜ、この野郎……!


 視線をベッドに移す――そこには、蒼髪の眠り姫がいた。やっぱりな。

 俺を呼びつけた代償、キッチリ払ってもらうぜ、ヴァイス――!

 まずは布団をそっとどける――おいおいおいおい! ちょっと待ってくれよ!


 いつから俺の彼女は、痴女……あるいは変態になったんだ? いや待て、どっちも同じ意味だ。


 にしても、これは大胆過ぎだぜ、ヴァイス。

 しょうがねえ、据え膳準備してくれたんだからな。ちゃんと食べてやるよ。

 俺は深呼吸すると、ヴァイスの豊かな果実に手を伸ばした。


     *


 ん。いつも通り、布団をどけてくれたのね。

 すっかり馴染みの光景と化したわね。

 龍野君、”手紙と寝たふりをしたら、『いいわよ』の合図”、ちゃんと覚えているのね。嬉しいわ。

 あんっ、早速そこに手を出すなんて。まあ男ですもの、惹かれるのは当然よね。

 そして、しばらくは様子見ね。


 何と言っても、龍野君が必死に私をむさぼるのを下から眺めるのが、最高の愉悦なのだから。


 そう。それはまるで、子供が母親にご褒美をねだるさま

 そんな彼をこの目で見て、いとおしいと感じるの。

 それこそが、男を魅了する素養を備えた、私の最大の特権にして娯楽。

 けどね、流石に『男なら誰でもいい』なんていう、ふしだらな女ではないわ。

 私が我が身を許すのは、私の眼鏡に叶った男だけ。


 それが、眼前で必死になっている、龍野君よ。


 うふ、見ているだけでたかぶってきたわ。

 体の奥から、じんわりと熱が出てる。

 やはり受け身というのは、余裕をもって味わえるものね。

 殿方……とくに龍野君は、積極的になることで己の優越を味わうのだけれど……婦人は――少なくとも私は――それを受け止め、見守ることで、己の優越を味わうのよ。

 それが自然の摂理ですもの……うふふ。って、あら?


 ついにネグリジェの紐を外しにかかったわね、龍野君。


 しょうがないわね、今はまだ眠っているふりを続けるとしましょうか……。我慢は重ねれば重ねる程に、解放後の快感は増えるのだから。


     *


 やれやれ、果実をたっぷりと味わえるなんて、随分役得だぜ。

 まあ実際は、ヴァイスの眼鏡に一番最初に叶ったのが俺だった、ってだけの話なんだけどよ。

 それにしても……今日に限って、なかなか起きないな。睡眠薬でも飲んだのか?

 いや、よそう。今はこの時間を、じっくりとたのしむだけさ……。

 まずは一箇所。ちょろいな。

 次は下か。リボン結びなだけあって、あっさりと外せるな。

 二つ目、三つ目と、立て続けだ。

 だが、ワンピースだな。今夜のネグリジェ……かどうか怪しい寝間着は。

 けど、たまには着衣ってのも悪くないな。むしろ逆に興奮してきた。


 嬉しいやら、悲しいやら。男のさがってやつだ。


 だからもっと、じっくり味わってやる。

 あまり寝返りをうたせちまうと、起きるかもしれないが……まあ、その時はその時だ。

 俺はもう、意識を保てないな。


     *


 さあ、いよいよね。

 どうなることかしら。楽しみだわぁ、龍野君。

 邪魔なものを取り払って、遠慮なく平らげてしまうのね。そうよ、それでいいの。

 けど、悩み事が一つだけ。

 私はいつ、目覚めればいいのかしらね。

 龍野君が私の中……こほん、私の、最初の一口を味わったときかしらね。あれ、意外と寝ていても気づくらしいから。

 ああ、すっかりかれちゃった。ネグリジェじゃないものは、だけど。

 そして私を仰向けにするの。こういうの、定番っていうのよね。

 すっかりいつも通りの状態。食前の挨拶――”いただきます”の――代わりね。


 私の腰をそっと押さえて――あん。うふふ、危なかったわ。もう少しで声が出るところだったじゃない、龍野君。


 さあ、今が好機ね。寝たふりという我慢は、これでおしまいよ。

「ん……りゅう、や、君?」

 我ながら自然な寝起きの声ね。タイミングはバッチリよ。

「うふふ……ちゃんと、手紙……読んでくれたのね」

「そりゃ……当然、だろ……」

 私は両腕を、龍野君の背中に回す。

 筋骨隆々のたくましい背中。今まで私を守ってきてくれた、大切な背中。

 こうやって直に味わえるの、ゾクゾクするほど素晴らしいわね。



 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、龍野君は一心不乱に私を食べてる。

 正直、意識が消えそう。

 これが何度目かはもう忘れちゃったけれど、いつでも新鮮な感覚を味わえるのよね。凄い才能よ、龍野君。

 なんて余裕ぶってはいるけれど、そろそろ口呼吸に変わるくらいなのよね。これ、受け身であっても、ちょっとした運動――あるいは疲労――を強いられるのだから。

 まあ、それが心地良いものなのは、今更言うまでもないのだけれど。

 しばらくは、このまま続きそうね。


     *


 十五分後。

 限界を迎える寸前の龍野君は、子供が涙を流して母親にすがりつくように、必死になってる……。

 私もそれを受け止めるのだけれど……龍野君が体重をかけるのを調節してくれなければ、呼吸困難で一大事になってるかもね。

 まあ、受け身だし、文句を言う気は無いのだけれど。


「………………!」


 んっ……。龍野君、ひと段落着いたのね。

 それと同時に押し寄せる、強烈な感覚。

 こればかりは、我慢強いつもりでいた私も、耐え切れない。

 短い悲鳴を漏らしていたわ。そして意識が正常に戻れば、私は龍野君をぎゅうっと抱きしめていた。

 けど……これで今夜も、上質な魔力が私の一部となるのね。

 燃料が高級品になったから、明日も限界以上の力を出せるわ。いけない、話が横道に逸れてしまったわね。

 それよりも……これきりで終わるはずが無いのが、龍野君なのだけれど……。


「………………」


 やっぱりね。今日も私は、龍野君という獣の眼前に投げ込まれた餌。

 まあ、方々ほうぼうからの許しを得ているのだから、節度を持って楽しみましょ。

 もっとも、十連続というのは、”節度を持って”なんかない、って証拠なのだけれど……。


     *


「うふふ……ごちそうさま」

 あれから更に三時間後。

 私は、取り急ぎシャワーを浴びたくなる状態になっていたわ。けど、悲しいことに――


 龍野君を抱きしめ続けていたの。


 女のさがというものね。

 『やめろ』と言われても、やめられないのよ。本能なのかしらね。

 そういう龍野君は、私に背中を向けているのだけれど、これは殿方の本能だと言うわよね。

 仕方が無いから、しばらくこうしていたら――私の意識は、暗くなってしまったわ。


     *


「おはよう、ヴァイス」

「おはよう、龍野君」

 朝起きてからは、もういつも通りの日常に逆戻りね。

 互いに挨拶を交わして、身だしなみを軽く整え、朝食に向かう。

 ああそうそう、シャワーは二人ともちゃんと浴びたわよ。だから挨拶した場所は……そうね、混浴場前の脱衣所ね。

 それよりも、今朝の龍野君、挨拶のときに親指を上げていたわね。

 おまけにまんざらでもない顔をしていたから、うふふ……私の誘惑は、成功ね。


 次はどんな誘惑を仕掛けようかしら。待っててね、龍野君。

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