第12話

「だからぁ、お前ぇはダメなんだよ。この朴念仁」


ヴェルトの全快祝いと称した飲み会でのロランの台詞だ。

それは、沢山の見舞い客の中の誰かがヴェルト宛のラブレターを置いていったらしいが、相手がどんな女性であっのかを全く覚えていないという失礼な話し故だった。

手紙には名前は記して無かった。


「ロラン、急に偉そうだよね。この前まで誰かさんに声をかけるのさえ緊張してた奴が」


ヘリオスの指摘は的を得ていただけに辛辣だ。


「うるせぇ!俺は勝負に勝ったんだ!だからヴェルトとは違う!」


何の勝負なのかはよく解らなかったが、ビールを一気飲みしたロランがウェスタにヘラッとした顔を向けると、軽く手を振る彼女が居た。


「完璧、お膳立てされてよく言うよ」


実は、ヴェルトとアンジュの事件が起きた後で、コルタナが女の独り歩きの危険を示唆した所、


「で、出掛ける時は声をかけろよ!お、俺がウェスタを守ってやる!」


と、勢い余って中途半端な告白のようなモノをして、しかしロランの不器用さを知っていたウェスタがにっこり頷いたという次第であった。

それからの2人の仲睦まじさは評判になり、ユニゾンカップルがあちこちで出来たのはまた別の話である。


「お膳立てなんてされてねぇ!」

「ロランって無駄に勝ち気だよなぁ」


そう言ったのは魚屋のカイルスであったが、その彼もユニゾンカップル組だ。


「俺の事はいいんだよ!今はヴェルトだろ!」

「しかし、ラブレターに名前が無いとは、積極的なのか消極的なのか解らん女だな」

「想いが募り過ぎて、書いたはいいけど名前までは恥ずかしかったんじゃねぇの?」


百戦錬磨のヘリオスの分析は正解っぽく聞こえる。


「ヴェルトの話だと、1人で来た女はコルタナ以外居なかったって事らしいから、団体に紛れて置いていったんだよ」

「なるほど〜。…案外、コルタナだったりして」

「バカ!あたしなら名前書かないなんてポカしないし、手紙なんて遠回しな事しないわよ」


ロランのお代りをいつの間にか持って来たコルタナが、グラスを乱暴にテーブルへ置いた。


「違いねぇ。コルタナは直球だからな」

「失礼な言い方しないでよね!あたしは誰でも良いヘリオスとは違うのよ!」

「俺はお前に手ぇ出してねぇぞ」

「出されてたまるもんですか!」


コルタナがフンッと背を向けて仕事に戻ると、テーブルでは笑いが起こる。

そのコルタナを視線で追うヘリオスにヴェルトは気付いたが、何も言わずにいつも通りにワインを口に運んだ。


ヴェルトの話をしていたはずなのに、話題は二転三転してまた別に向かって行く。これも飲み会でのあるあるだ。

ヴェルトはこの場の空気に、今迄感じる事を許されなかった心をふわりと撫でられたような感情を覚える。

そして、それが続くものだと信じて疑わなかった。

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