引きこもり魔王、国を守る
@taikaino-kawazu
【1】私は誰とも口を利かないぞ!
「魔王様! 魔王様!」
「どうだ、魔王様からのお返事はあったか」
「ダメだ、中からは物音一つしない」
「本当に生きてらっしゃるのか? もう閉じ籠られて一週間だぞ」
「生きていることは間違いない。扉に強力な結界魔法が施されているのがその証拠だ。この魔法は生きてる者にしか使えない」
「だとしたら魔王様は一週間飲まず食わずで結界を張り続けていることになる。なあ、放っておいてもその内力尽きて結界が解けるんじゃないのか? もうそれを待ったほうが早いんじゃないか? 魔王様が自ら結界を張っているのであれば、誰にも解くことは出来ないだろう」
「万が一のことがあっては先王様に顔向け出来ん!」
「それはそうだが……」
ごちゃごちゃと外が五月蝿い。
まあ、私が返事しないのが悪いんだけど。
私の名はベルル。魔王だ。
いや、魔女王が正しい。こんなんでも女だ。
そして外でごちゃごちゃ喚いているのは配下の魔物だ。
大声を出していたのがデスメイジのマヌル、私が力尽きるのを待とうと口走っていたのがデモンロードのバルタスだ。
バルタスは今度顔を合わせた時に殴ってやる。
どうして私が結界を張ってまで閉じ籠っているのかだが、理由はとてもシンプルだ。
は た ら き た く ね ぇ 。
実はつい先日親父が死んだ。
先代の魔王だ。
だから私が魔王の座を継いだのだが、これは私にとって非常に不本意なものだった。
ぶっちゃけ、親父が王様だし私は女だから、別に何もしなくても一生楽して暮らせると思ってた。
本気でそう思っていた。
まあ、いずれは結婚しなきゃなぁ、とか子供を生んで魔王を継いでもらわなきゃだよなぁ、とかそういうことも考えたりしたけれど、私達の寿命はすごく長いからその辺はおいおいで良いかなぁと思ってた。
なのに、急に親父が死んじまった。
しかも原因が分かってない。
病気なのか呪いなのか、それすらも分かっていない。
誰かに殺されたワケではないから、真相はこのままだと謎のままになるんだろう。
まあ、それは時間の問題だろうけど。
問題なのは、私以外に王位を継ぐ者がいなかったことだ。
お母さまは私を産んだ時に亡くなってしまっていて、親父とその配下が私を育てた。
私の性格と言葉使いがこんななのも、それが原因というワケ。
魔王は代々王家の血筋が継ぐことになっている。
ホントは誰が魔王を名乗っても構わないんじゃないかと私は思うけど、もしそうなると私は一人で(と言うか自分の力で)生きていかなきゃならなくなるからそれはそれで困る。働きたくねぇんだ。
だから仕方なく私は魔王になった。
そこまでは良かった(良くねぇけど)。
けど、魔王になって初めて知ったのが、魔王の仕事の多さ。
その大部分を占めるのが国の各管理部署から上がってくる書類の決裁。
今外で喚いているマヌルがしつこく私を呼んでいるのも決裁待ちの書類が溜まっているからだ。
ここで最初に私の主張を述べておこう。
そ れ 、 わ た し ひ つ よ う ?
マヌルが代わりに決裁してくれたら良いんじゃないの?
判押すだけでしょ?
私である必要無くね?
だって言うのに。
「魔王様! 魔王様ぁ! 決裁待ちの重要書類がたまっております! どうか政務を執り行ってくださいませ! 魔王様の大事な責任でございます!」
だってさ。
責任は取るから代判してくれたら良いじゃん?
責任の取り方とか分かんないけどさ。
そんなワケで私は部屋に閉じ籠って配下の言葉を無視し続けている。
あ、ご飯はちゃんと食べてるよ。
結界の出入りは術者の私には自由だから転移魔法で移動して料理長に作らせて食べたらまた魔法で部屋に戻る。これの繰返し。お風呂なども同様。
従者には口止めしてあるので、知らないのは私を働かせようとしている外の奴らだけだ。
「魔王様ぁ、後生ですから、せめてお姿だけでもお見せくださいませ……。こんな所に閉じ籠っておられてはお身体に障ります。魔王様の身に何かあっては私は先王様にあの世で合わす顔がありません……なにとぞ……」
チッ。めんどぉだなぁ。
面倒だけど本当にずっと扉前に居続けるんだろうから、厄介払いも兼ねて顔くらい見せるか。
私は結界を一時解くと、扉を開ける。
「魔王様!」
「お、開けた」
「……」
バタン、と扉を閉じる。
よし。
結界を張り直す。
「魔王様ぁぁ!!!」
「本当に顔を見せただけだったな」
かき書きカキ。
スッと扉の隙間から紙を差し出す。
「おい、何か紙が出て来たぞ」
「……代わりに、判を……私が……?」
「なるほど、魔王公認であれば一応、問題は無いな。宰相ということか。魔王様はとにかく自ら政務を行う気は無いようだな」
「それでは魔王様の権威が……国民への示しが……」
「まあまあ、まだ継いだばかりじゃないか。これからだろ、そういうのは」
「だが……」
かき書きカキ。
スッ。
「お、また何か書いてあるぞ」
「ごちゃごちゃ五月蝿い……ですと……私はこの国を、魔王様を想って……」
「そういうのが、って事だろ。マヌル、良いじゃないか。仕方ないさ」
「だが、魔王様を一人きりにするのが私は心配で……」
「なぁ。俺達も落ち着く必要があるのさ。魔王様のことはもう少し待とう……。それに今は政務どころじゃないだろう」
「……う、うむ……。せめて、お部屋に戻っていただけたらと私は……」
「分かってる。分かってるって。魔王様もな。ほら、行くぞ」
声が聞こえなくなり、扉の前から気配が無くなる。
どうやらようやく諦めたようだ。
「……ふぅ。心配なのは分かるんだけどな。ちょっとは信用してくれって話だよ」
私は、今とても忙しいんだよ。
***
「……おいマヌル、実際のところお前はどう思ってる。分かると思うか」
「どうだろうなぁ。私にも、この王国一の知識を有していると自負するこの私でさえ、先王様の死因が分からなかった。正直、難しいと思う」
「……だよなぁ。魔王様が倉庫に閉じ籠って一週間。古文書を読み漁ってるって料理長や侍女らは言ってたが……」
「魔王様が心配だ……。お優しい魔王様のことだ、お一人で魔王様の死因を明かすつもりなんだろう。もし、呪いだとすればお一人で敵討ちに行きかねん」
「……そうは俺がさせねぇよ。命に代えても魔王様は俺が護る」
「私だって! 死ぬまで魔王様に仕えると、死ぬまでお守りすると誓ったのだ! 魔王様をお一人になどさせん! 例え国民が魔王様を見放しても、私は魔王様のお側を離れん! この命に代えても魔王様をお守りするのだ!!」
「#喧__やかま__#しい。隣ででかい声出すな。それにそんな例え万が一にも有り得ん。魔王様のお気持ちは国民全員が分かってる。魔王様とお妃様の忘れ形見だ。俺達の、いや、この国の宝なんだ、姫様は」
***
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう……!!
絶対に、絶対に親父の死の真相を明かしてやる。
私の親父を殺した奴がいる筈だ。
じゃなきゃあんなに元気だった親父がいきなり死ぬ筈がねぇ。
私の治癒魔法さえ効かずに死ぬワケねぇんだ。
私は忘れねぇぞ。
私に抱かれ冷たくなっていく身体を、血の気が失せていく顔を。
私は忘れねぇ。
親父が死の間際に私に遺した言葉を。
『勇者を倒し世界を』
絶対に親父の無念を晴らすんだ。
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