楽しみ(いちごタルト、天体観測、コーヒー)


 デネブ、アルタイル、ベガ。どれも見えないくもり空。天体観測とは言うものの、星なんてものは一つも見えない。これは観測と言うのかどうか。多分言わないんだろうな。


 夏、夜、暑い、はずなんだが、今日は全然暑くない。もわっむわっとした空気も無い。過ごしやすい気候である。


 何も見えない空をただ眺める。全体に雲があるから雲の流れなんてものも無く。変わらない空を見上げるのみ。


 今日は特別やらなきゃいけないことも存在せず、ただっぼーっとするのも悪くない。とは言っても、何かは考えてしまうわけで。満員電車には乗りたくないなぁとか。あのむかつく上司を蹴飛ばしたいなぁとか。化粧はまだ許せるけど、化粧直しが面倒なんだよなぁとか。基本文句しかなく。


 もっと何か楽しい考え事をしようと思う。明日は上司に文句の一つでも言おう。……これは楽しい考え事ではないような気がする。もっと違うことだ。


 新しいメイクをしてみよう。うーん、これは楽しみ。職場で上司に何か言われる可能性はあるけども。……結局上司が邪魔をするな。消してやろうか。いけないいけない。楽しいこと、楽しいこと。


 朝起きて、支度して、ご飯食べて、満員電車に乗り出社。仕事して、また満員電車に乗って帰宅。これのどの部分に楽しいがあるのだろうか。朝食べるパンを高級な食パンにするとか、それくらいか。はぁ、帰りにケーキでも買わなきゃやってられないわ。いや、今日買ったな?


 ケーキを食べながら無の空を見ますか。冷蔵庫を開けるとそこには輝いて見えるケーキの箱、素敵だ。横着しないでお皿にのせてフォーク片手にベランダへ。一口食べて癒し効果抜群。風がでてきたからか肌寒く感じる。これはこの至高のケーキ、いちごタルトにホットコーヒーを合わせろということか。そそくさと部屋に戻りお湯を沸かす。ちょっといいところのインスタントを買っておいて良かった。お湯が沸くのが楽しみだ。おっ、楽しみなことあったな。湧いた音が響き渡る。カップにお湯を入れ混ぜる。よし、溶けた。いざベランダへ。


 やはり少々冷える。じゃじゃーん、ホットコーヒー。早速飲む。美味である。ふと空を見上げると、雲が流れていって空が見えてきた。少し晴れた。まぁこれくらいじゃ星が見えることもなく。


 ケーキを貪り、コーヒーを啜る。贅沢な時間。こんな夜に外で飲み食いしてる人なんていないだろうなぁ、なんて思いながら無我夢中で続ける。


 風が強くなってきた。ケーキもコーヒーも無くなり心が余計に寂しくなる。もう一杯飲むかな。またお湯を沸かしに行く。ついでにお皿を洗っちゃおう。


 それにしても夏なのにこんなに肌寒くなるなんてなぁ。コーヒーが美味しく感じますわ。お、沸いたな。二杯目のコーヒーを持って、何度目かのベランダへ。


「寒っ」


 体を震わせ空を見上げる。そこには雲一つない空が広がっていた。寒さを我慢したご褒美か。悪くない。これは堪能していくとしよう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る