三題噺

福蘭縁寿

僕のヒーロー(メロンパン、お面、天ぷら)

 僕のヒーローは、メロンパンのお面をつけている。

 僕がいじめられている時、助けてくれたヒーロー。

 一人で泣いている時、メロンパンをくれたヒーロー。

 僕のヒーローはメロンパンが好きだった。悲しい時も楽しい時もいつも隣にいてくれた。一言も話したことはないけれど、僕には大切な友達でヒーローだ。何処に住んでいるか何て名前か、そんなことは一つも知らなかった。知っているのは、メロンパンを持っていてメロンパンのお面をつけていることだけ。


 二人で川に行った。二人で野原を駈け回った。二人でメロンパンを食べた。


 そして一度だけ、僕の家に来た。お菓子を出したけどヒーローは口にしなかった。そう、僕はヒーローがメロンパン以外の物を食べているのを見たことがなかった。お菓子が駄目ならパンをと思って出してもそれも食べなかった。


 夕方になってお母さんがヒーローに夕ご飯を食べていきなさいと誘うと、間があったけど頷いた。お面で顔が見えないけれど、なんだか悲しそうに見えた。僕がおいしそうにメロンパンを食べている時のお母さんと同じだ。


 夕ご飯の時間になって二人で席に着いた。ヒーローはお面をつけたまま。今日のご飯は天ぷらだった。僕もヒーローもおいしいおいしいと食べた。お母さんは満足そうだった。


 食べ終わるとヒーローは僕に、初めてバイバイと書いた紙を渡した。そして僕に見えないようにお面を取ってお母さんを見た。またすぐにつけて玄関まで行ってしまったので僕は追いかけた。家の前でヒーローは手を振ってくれた。もちろん僕も振り返した。背中が見えなくなるまで見送った。


 この日からヒーローに会えなくなった。バイバイは永遠だった。どうして突然いなくなったか分からなかった。ヒーローを見送ったあと家に入ったら、お母さんが泣いていた理由も分からなかった。僕には分からないことだらけだった。


 それでもヒーローと過ごした毎日は宝物で忘れることがない大切な物だ。


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