第49話愛坂維新の会
どことも知れぬ、薄暗い倉庫。詰み置かれているコンテナの外郭部は大抵ダミーで内部にはテレビやトイレ、生活に必要な食料や物資が蓄えられている。
表向きは中国企業の倉庫だがそれがまた都合が良かったらしく、彼らの絶好の隠れ家になっている
その隠れ家の一室、ところ狭しと3人がテレビに釘付けとなっていた
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「はい、私は今、東京駅にある新しい設備の前にきております」
リポーターが続ける
「~世界が賞賛する!!日本の最先端技術を駆使した新設備~」
画面にテロップが出て番組が進行する
「一日およそ40万人以上が利用していると言われる東京駅」
「通路がとてもごちゃごちゃして不便ですよね~」
マイク片手に力説
「そこである会社が目を付けたのが・・」
男性ナレーションが動画に被さり
「新通路。」
解説を始める
「この通路、良く見ると女性の顔の写真が通路一面、床にまであちこちに印刷されています」
「これが最新技術だったんですね~!」
女性レポーターの驚きのジェスチャーと共にカメラが床へとズームインしていく
そしてCGによる説明に切り替わった
「この通路の最大の特徴は、この圧力センサー」
「世の中の意識を変えていこうという新しい試みだ」
再び男性ナレーション。概要CGの人形が動き出す
「まず、女性の顔を躊躇無く踏んでいく男性」
「これは論外。女性軽視とみなされ処罰として罰金を言い渡される」
「そして、ありがちなのは女性の顔をなんとか踏まずに歩く男性」
「実は、これもよくない。なぜなら彼らは「なるべく女性に関わりたくない」と、考えているからだ」
「そういった歪んだ思想を持った男性は社会問題を起こしがちな事は明白」
「こちらは、警察が用意した矯正セミナー(有料)に参加していただく事になる」
画面に棒状のグラフが登場し、踏んでいく男性と、踏まずに歩く男性の「犯罪率」が表示される
※事前モニター調べ と右下に表示されているが、まず間違いなくでっちあげであろう
「でも、なにか問題は起きなかったんですか?」
女性レポーターが、その通路を作った人に尋ねる
「特になかったですね」
「強いて言えば」
「男性の通るスペースがほとんど無くなってしまった事ですが(笑)」
「月額1万のコース(通路)と」
「月額5万のコース(通路)を取り揃えてありますのでご安心を」
「そちらは今までと同じく使用できます」
ドヤ顔で説明する会社の社員
「そのおかげでごらんください!!」
「あんなに混んでいた東京駅が快適になりました!」
通路全体を見やる女性レポーター。男性の姿は皆無だ
「そうでしょう」
「これによって従来の物よりも良い環境で、気持ち良く東京駅を利用してもらえたら、幸いです」
その後コメンテーターや、よく解らない教授などが番組内で賛辞の声をあげまくり、放送はニュースへと切り替わった
だが彼らの言動は無理も無い。どこのテレビ局も天下りが幅を効かせている。番組降板は言うにあらず下手すれば自身の命がかかってくる。政策に批判的な言葉など彼らには吐く勇気がなかったのだ。
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「・・・これはひどい」
「馬鹿げている」
「やつらに取っちゃ国はお金を吸い上げる合法機関で、国民は奴隷なのさ」
「露骨に天下り先作りやがって」
「おい、須火(すが)様にご連絡を」
腕を組んでニュースを見ていた3人組は、リーダーに連絡を取った
『愛坂維新の会(あいさかいしんのかい)』
かつて日本中の役人達を震えあがらせた愛坂、その残党によって結成された組織である。
「ああ・・うう・・」
「深診(ふかみ)・・深診へ頼む・・」
そのリーダーであり、実行犯唯一の生き残りである 須火 清(すが きよし)は能力の使い過ぎで既に体はボロボロ、生命維持装置にすがって生き永らえていた
「それならば、(放送前から)もう知っている。」
「テレビ局にも何人か潜りこませてあるのでね」
別室からのモニター通信に切り替わる
・深診 正(ふかみ ただし)
かの事件で愛坂の弁護士を務めた男である。何者かの手によって巨額の金を掴まされた弁護士協会から、半強制的に除名処分を受けた人物だ。
その後、 須火(すが)に拾われ、めきめきと頭角を現していった。生命維持装置も彼によって導入された物だ
「ハイハイ、解りやすい番組なこって」
白衣を着た男は赤い長髪を揺らし
「罠・・かもなぁー?」
イスから背後をチラリと見やる
「・・・・」
「また・・・まだあんたたちは・・」
「こんな人攫いを続けて・・」
背後にはおぼろげな表情をした犬馬のり子の姿があった
「チッ・・」
舌打ちした深診は犬馬の前頭部を鷲づかみにして
「初対面でもあるまいし、人聞き悪い事言うなよなぁー?お嬢さん」
「薬だって高いんだぜぇー?」
「ツテがあんならさぁー?ちゃっちゃとお願いしてみてよ?」
犬馬の耳元でささやく
「だから私にはなんの権限も・・私は」
「私は、、いつになったら許されるの・・」
「ゆる・・・げぇぇぇぇっ!!!」
「かはっ・・!!はーーーっ!!」
憔悴しきった犬馬が絞り出すようにして言葉と胃液をぶちまける。後はもう出す物も無く、ただただ強烈な吐き気が残る
「あー、また薬吐き出しやがって」
「どいつもこいつも次から次へときりがねえ」
「俺だって好きでこんな事やってんじゃねーの!!」
彼女の持ち物から薬を取り出す。どうやら今日貰ったばかりのようだ
「珍海も・・」
そう言い掛けたとき彼女の目が大きく見開かれるのが垣間見えた
「(やれやれ、前回よりひでえな)」
「珍海も大変だな」
上手く食いついてくれるといいが
「めず・・らみ・・・?珍海がどうしたの?」
明らかに動揺する犬馬。これはいけそうだ
「おまえが人を殺した事はうちらしか知らない(会長も知っているかもしれないが)」
「懇願しろ、会長に縋って」
「珍海君に嫌われるか、今のままでいるかおまえが選べ」
下腹部にそっと手を這わす
「だから私には・・そんな権限は・・・会長だって・・・ぎっ!!!」
乱暴に指を突っ込まれ顔を歪める犬馬
「権限とかそーいう問題じゃねーんだよ!!」
一瞬怒りの表情を表す深診。だが彼は
「珍海君はもっと優しくしてくれるんだろう?」
そこから急激にペースを落とすと、ゆっくりと犬馬の体を解きほぐしていった
「ひっ・・!ぎっ・・・!」
「・・あっ・・!はっぐ・・!」
快感による暗示を必至に噛み殺す犬馬。
「隠し通したいんだろう!?」
「許して貰いたいんだろう!」
「救われたいんだろう!!」
語気を荒げながら徐々に加速していくマッサージ
「ならば会長の前で叫べ!!こんな世の中はおかしいと!!」
「こんな国滅んでしまえば良いと!!!」
この男を加速させているのは憎悪。一人ではない。冤罪により破滅していった男性すべての無念がメラメラと黒い炎を立てて
彼の動力に沸き上がる。司法が、警察が、官僚が、日本の女性すべてが、
『おまえは犯罪者だ』
罪無き男性の臓器をもぎ取っていく。心を乱暴に掴み、血だらけになるまで引きずり回す
「こんな”世のなかっ・・あっあっあ”っ!!」
「おがじい~~~!!!」
「こんなぐに・・あ”っ・・はっ・・いぐぅぅうう!!!」
犬馬は白目をむいて果てた。
「チッ・・」
「次から次へと・・」
彼女の潜在意識にすり込ませるにはまだ少しかかるだろう。捜索願でも出されたら厄介だが両親は確か不在の筈。とりあえず
『友達の家に泊まっているから心配しないで欲しい』
『東京駅の馬鹿げた制度を見直して欲しい』
この2つは早急に会長へ電話させるとするか
「マサラ・・・?」
友達か?彼女の携帯には見た事が無い名前の着信履歴が残っている
「念の為これも調べておけ」
深診は部下に命じて彼女の身辺を調査させた
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夕日が幕張の商業施設をゆっくりと包み込むように照らす。どこからともなく漂ってくるスパイスの効いたカレー臭。
「なぁに、これ、かっらぁ~~い!!」
一口食べた犬馬が文句を言う
「だからそれ、初心者は12辛とか無理って言ったじゃんよ(笑)」
穏やかな時間。マサラがくすくすと笑う
「おまたせしました」
「お次の料理です」
カレー屋の店員が有無を言わさず皿を下げる
「ちょっと、ちょっと!!」
「まだ・・・・ひっ・・!!」
新しく用意された皿には良く見知った顔が血だらけで乗っていた
私は夢の中で気絶した。まさか、ここも夢なのだろうか・・・わからない・・目を開こうが閉じようが暗闇・・
現実と大差は無い気がする・・いや、むしろ現実の方がひどい。だって
「夢には、良い夢もあるもの・・・」
暗闇の倉庫の中、彼女は次第に衰弱していった
※『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
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